【東京五輪】敢えて日本以外の出場国の戦績を振り返る

東京オリンピックで見事悲願の金メダルを獲得した侍ジャパン。大会前に稲葉監督がコメントしていた”負けてもいい試合”とは裏腹に、全勝優勝という文句のつけ所のない結果となりました。全勝で勝ち進んだこともあり、決勝トーナメント以降の対戦相手は強豪相手の接戦が多かった訳ですが、細かい所でミスをせず相手に流れを渡さず、短期決戦の強さが光った内容でした。ということで日本代表の振り返りをしても、中々指摘できそうな内容が無さそうなため、対戦相手国を中心に東京五輪での活躍がどうだったのかを振替ってみましょう。


【アメリカ代表】4勝2敗

侍ジャパン以外の相手に対して盤石の戦いを見せたアメリカ五輪代表。防御率は侍ジャパンを上回る2.19。被打率も.226と侍ジャパンの投手陣と比べて遜色の無い投手成績をマークしている。守備もDER.728と大会参加国で1位でした。課題があるとすれば打線でしょうか。打率が3割を超えるのは、タイラー・オースティン(DH/横浜DeNA)のみ。OPSで見るとトリスタン・カサス(1B/ボストン・レッドソックス傘下)も.960と優秀ですが、打率.217/出塁率.308しかなく確実性が乏しいものでした。アメリカ代表の打点28の内、半分近くがこの2人に集中したことも、他の選手が攻撃に貢献しきれていなかったことの裏返しでもあります。もちろん日本の投手陣を2度も相手にしなくてはならなかったことは考慮に入れる必要はありますが、一方で韓国相手に良い投手を使い果たした後のイスラエルとも対戦した訳で、やはりこの打撃成績はアメリカ代表としては寂しい内容です。

その一方で、アメリカ代表には常設の代表チームや監督がいませんし、大会によって参加できる選手の条件が変わることでチームも一変します。チームに継続性がないので『打線が課題』という問題提起も、チームがゼロリセットされることにで議論の必要が無くなってしまう。そのことの方が個人的には寂しさを感じます。


【ドミニカ共和国代表】3勝3敗

ドミニカ共和国は、攻撃面では打率こそ低いものの持ち前のパワーを発揮でき、対戦相手に脅威を与えることは出来たのではないかと思います。先発投手に関しては上々と言える活躍だったと思います。欲を言うともう1イニング耐えて欲しいというシーンもいくつかありました。ただそれはドミニカ共和国のリリーフ陣が踏ん張りが効かないので、先発を引っ張りたい、という流れでリリーフが根本的な課題だったためです。先発投手陣の奪三振率K/9が7.4なのに対して、リリーフ陣のK/9は4.3と悪化します。因みに、このリリーフ陣のK/9の4.3は大会参加国中ワーストです。ピンチの場面で三振が取れないとなると継投的にも苦しくなりますので、もう少しリリーフ陣が強力だったら結果は変わっていたかもしれません。

今後の国際大会は大きい大会で言うとWBC、リージョナルな大会だと中央アメリカ・カリブ海競技大会になりますが、どちらも現時点で2023年開催の予定ですので、しばらくドミニカ共和国代表が国際大会でプレイする姿を目にする機会はなさそうです。五輪でのメダル獲得という1つのミッションを終えたことで、同国の国際大会への参加が活発化するのか?ウィンターリーグを統括するLIDOMとドミニカ共和国野球連盟(FEDOBE)の関係がどうなっていくのかも気になる所です。


【韓国代表】3勝4敗

メダルを逃したことで、監督のコメントや試合中の表情など試合内容以外のことまでに批判が及んでいる韓国代表。しかし、金卿文監督の「国際大会で優勝するためには良い先発を速く作らなくてはならない」というコメントはその通りで、今回の敗因は投手陣に合ったと言って間違いありません。韓国代表の防御率は5.34、流石にこの内容では厳しいでしょう。先制点を奪われる試合が多く、先発が相手打線の2回り目まで持たずに降板させられるシーンが多かったように思います。一方で、リリーフ陣も与四球率BB/9は4.8は大会参加国中ワーストでした。奪三振率は先発・リリーフとも日本投手陣並みだっただけに後1つ勿体ない感じがします。安定的に長いイニングを投げられる先発投手と、国際大会でも与四球を出さないリリーフ投手の制球向上。この2つが次回の国際大会に向けて課題となりそうです。


【イスラエル代表】1勝4敗

イスラエル代表がこの戦力で5試合も戦えたのは上出来と言えるでしょう。1試合当たりの得点は5.0点。これはイスラエルより上位の戦績だった4カ国に引けを取っていませんでした。イスラエル代表の打撃成績 OPS.688/wOBA.304は、どちらも6カ国中5番目と決して良い結果では無かったにも関わらず、うまく得点に繋げられたようです。

問題は投手の層。起用される投手の格を見ても『勝ちに行く試合』と『そうでない試合』がはっきりとしており、後者の試合では散々に打ち込まれています。その『勝ちに行く試合』で投入される選手も決して安心して見れる保証はなく、結果長いイニングを投げさせることも出来なかったため、イスラエル首脳陣も継投は終始苦しかったと思います。”戦力の割りに上手く戦った”という評価は出来てもそもそもの戦力が絶対的に足りないので、今後も国際試合でコンスタントに勝ち続けるには今のままでは厳しいでしょう。今後この勢いを維持するのであれば、五輪競技から外れてしまってもイスラエル代表として出場することを現役の選手たちが望むようなリクルーティングを、イスラエル野球協会は続けていく必要があると思います。『国際大会のダークホース』イスラエル代表が、また旋風を巻き起こしてくれることを楽しみにしていきましょう。次回は今年9月開催予定の欧州野球選手権。欧州では追われる立場となったイスラエルの今後に注目です。


【メキシコ代表】 0勝3敗

メキシコ代表に関しては、良い所が全く無かったと言わざるを得ません。投手起用は不可解な点が多く見られました。先発エース格と見られていたマニュアル・バニュエロスが日本戦の先発に起用されず照準をイスラエル戦に切り替えたのかと思ったらリリーフで起用。負けたら終わりのイスラエル戦では、3ランHRを被弾したマニー・バレダをまだ続投させピンチを広げたり、采配には理解できない点が多々見受けられた。強みであるはずの投手陣が仕事が出来たのは初戦のドミニカ共和国だけでしたが、これは先発のスタンキビッチが頑張っただけであって、他の2試合については継投策によって接戦に持ち込む展開に持ち込めたのではないかと思います。

攻撃陣に関しては更に悪い内容。チームOPS .552/wOBA.253は参加国で断トツのワースト。元オリックスのジョーイ・メネセス(OF/ボストン・レッドソックス傘下)だけが1人奮闘しただけで、他の打者はこれといった活躍は出来ませんでした。選手名鑑でも書きましたが、カリビアンシリーズに出場しているメキシコ代表チームも『三振することが少ないが四球による出塁も少ない』という傾向が今回のオリンピックでも出ました。メキシカンリーグ所属の選手が主体の構成でしたが、メキシカンリーグと言えば標高の高さくる打高投低のリーグとして知られます。それが今回のように国際大会では一変して打撃成績が落ちるという現象が、標高による問題か?と言うとそうも言い切れないのです。と言うのも今回選手された野手が、メキシカンリーグでも標高の高くない方のモンテレイやティファナなどに所属している選手がほとんど。つまり、試合の半分は標高が高い所でやっていると思いますが、メキシカンリーグの打撃成績に対して標高による補正はあまり考えなくても良さそうです。となると打席におけるアプローチの問題(早打ちで四球が少ない点など)となのか。今後メキシカンリーグ&カリビアンシリーズのメキシコ代表を掘り下げて行きたいと思います。


因みに日本代表について少し触れておきます。稲葉監督が公言していた「スピード&パワー」。過去の日本代表と同じく犠打と盗塁成功数が他国と比べて圧倒的に多いのですが、パワー面ではIsoP(=長打率ー打率)は下から2番目(最下位はメキシコ)という成績でした。しかし打率は上から2番目で、しかも打率首位の韓国はイスラエル戦のコールドボーナスが含まれますから事実上日本が首位と言っていいでしょう。「国際試合は打てないと勝てない」という課題に対しては「打てた」という結果で選手が応えた訳です。更に「四球を与えない」という点でも侍投手陣のBB%は6カ国中最少。稲葉監督が標榜していた各テーマに対して有言実行できたことが侍ジャパンの勝因と言えると思います。改めて侍ジャパン金メダルおめでとうございます!


~以上、今回もご覧頂きありがとうございました~

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