【U18W杯】改めて敗因を分析

 今更ながらですが、U18W杯における高校日本代表の戦いっぷりを振り返ってみます。分析してみると、プロやU23代表など他の世代の日本代表と共通する戦い方をしていた一方で、日本らしくない(ある意味高校らしい?)戦い方をしていた点が見えてきました。


投手の奪三振は他国と比べて突出

 下のグラフは、各国のアウト(三振、ゴロアウト、フライアウト)とヒット(本塁打以外の安打、本塁打)を割合にしたものです(グラフ内数値は、アウト及びヒットの数)。全体に占めるヒット系(黄緑と深緑)の割合は、ほぼ各国投手の被打率の値になります。

 奪三振(青)の割合に注目すると、高校日本代表の投手陣は他のU18代表チームと比べて如何に高い奪三振能力を持っていたかが分かります。日本代表チームは、WBCなどの大会でも、他の国と比べて高い奪三振率をマークすることが多いのですが、高校日本代表も例外ではなく、他国とは明らかに違うアウトの取り方をしていたと言えると思います。


日本代表の守備は本当に良くなかったのか?

 それでは、三振以外の部分つまり野手の”守備”はどうだったのでしょうか?大会後、優勝を勝ち取ることが出来なかった原因として、『野手の守備の乱れ』を指摘する記事が多く書かれていました。先ほどのグラフの通り、日本代表は三振によるアウト奪取が多かった分、野手の守備機会は他国と比べて少ない方でした。更に、野手によるアウトの数で見ると、ゴロアウトの割合は他国の代表と大きく変わらないのに対し、フライアウトの割合は他国の半分程度しかありませんでした。では、フライアウトが取れてないのは、アウトが取れずヒットになってしまっているのかと言うとそうでもありません。日本代表の投手陣は、被長打数が少なく、外野を超えるようなヒットは比較的少ない方でした。

 まず、伝統的な守備の指標『守備率』を見てみます。守備率はエラーをしなかった割合です。

【各U18代表チーム守備率】

アメリカ 0.981

台湾     0.971

韓国          0.970

日本          0.966

スペイン   0.966

パナマ      0.965

中国         0.960

豪州         0.959

オランダ  0.958

ニカラグア 0.956

カナダ      0.943

南アフリカ 0.896


日本代表の守備率は4番目に良い数値でしたが、今大会で上位に進出したアメリカや台湾、韓国と比べると下回っています。

次にセイバーメトリクス系の指標『DER(守備効率)』です。これは本塁打を除くグラウンド内に飛んだボールをアウトにした割合です。

【各U18代表チームDER】

オランダ  .767

台湾    .735

豪州    .731

スペイン  .726

アメリカ  .707

パナマ   .695

日本    .683

中国    .659

カナダ   .655

ニカラグア .651

韓国    .643

南アフリカ .559


日本代表のDERの値は、参加12チーム中7番手です。一般的にフライアウトよりゴロアウトの方が多いですから、DERには内野守備の方が影響を与えます。守備率の順位、DERの順位、被長打の数は少なかった点、他の国と比べてゴロアウトの割合は変わらなかった点、これらの情報から総合して考えると、やはり日本代表の内野の守備力が優勝した台湾など他の強豪国と比べると若干劣っていた可能性があります。そう考えると、日本の優れた投手陣と内野陣の相性はあまり良くはなかったのかなと思います。


日本代表の攻撃は問題なかったのか?

一方、日本代表の攻撃は問題なかったのでしょうか?月並みですが、まずはOPS(=出塁率+長打率)を見てみます。日本代表のOPSは0.781で大会参加チーム中4番目。ただし、出塁率は0.390で、優勝した台湾に続き2番目に位置しています。

次に塁に出た後の動きを見てみます。下のグラフは、盗塁、犠打、盗塁死の回数を示したものです。日本代表を見てみれば一目瞭然、他国と比べて犠打が圧倒的に多いのが分かります。

 一方で、日本代表の盗塁数が少ないのが分かります。台湾、韓国だけでなく11位の中国も2桁の盗塁数をマークしています。パワーで劣るアジアの国が小技を駆使しているのかと思いきや、アメリカやカナダも盗塁数は日本の倍近くマークしているのです。もちろん、盗塁が失敗すればランナーがいなくなりますので、リスクも付きまといます。一般的に盗塁成功数が盗塁失敗の倍以上マークしていれば、得点期待値としてはプラスに効きます。そうみれば豪州あたりは盗塁死が多すぎて論外ですが、カナダなんかは盗塁11に対し盗塁死0ですから、これは完全に成功例です。

 日本代表の首脳陣が、他の強豪国と比べて盗塁を控え、犠打に頼ったのは完全に”高校野球”の発想です。しかし、日本を代表する打者が揃ったチームで、犠打に頼らなければ得点できなかったのか?少なくとも、日本の野手が他の国と比べて明らかに足が遅いという訳ではなかったと思います。これが1つの高校の話ならば分かりますが、代表の戦い方と1高校の戦い方は違うと思うのです。単刀直入に言えば、もう少し仕掛けても良かったのではないかと思う訳です。

 さらに別の見方をすれば、犠打10ということはイニング数で言うと3回1/3はアウトを献上しているということなので、犠打10はちょっと多すぎだろうと…。


3試合を振り返る

 まず5-1で勝利したカナダ戦。日本代表は1回、2回、3回と全て先頭打者が出塁し、次の打者が犠牲バントを決めています。しかし結果3回までで得点なし。得点した5回と7回は、先頭打者が四球で出塁しますが、次の打者も連続四球で犠牲バントを使いませんでした。

 次に4-5で敗れた韓国戦。この試合はタイブレークで敗れたので、勝敗自体は引分けのようなものでしたが、1回と2回先頭打者が出塁したものの、得点に繋げられなかったのは痛恨でした。この時も1回先頭の森が出塁した後、2番の武岡が犠打で送ったものの、ランナーを返せませんでした。

 1-4で敗れた豪州戦。この時はゴロやフライを量産して打線が沈黙しました。この試合は犠打や盗塁どうこうというより、相手投手に対して力負けしたように見えます。この試合は采配でどうにかなる試合ではなかったかと思います。ゴロアウトやフライアウトを量産してしまうのは、プロの日本代表でも負けパターンです。

 結果論ぽくなりますが、カナダ戦や韓国戦の試合序盤の展開を見ると、早い回からの犠牲バント戦略が試合展開を難しくした可能性があります。特にカナダ戦は3回犠打をしている訳ですから、1イニング分は攻撃のチャンスが減っている訳です。もちろん、これでランナーは進んでいますが、1アウト2塁と0アウト1塁では、その後に得点が入る確率は大きく変わらず、むしろ後者の方が若干高いと言われています。なので、タイブレーク時のように試合終盤での犠牲バントは否定しませんが、序盤からの犠打が有効だったかというと”理屈”だけでなく”結果”から見ても有効ではなかったと言えます。


日本代表の振り返り、まとめると以下の通りです。

1)投手陣は、高い奪三振能力で日本らしさを見せていた。

2)守備は他の強豪国と比べて決して良いとは言えなかった。投手陣と内野陣の相性は良いとは言えなかった。

3)攻撃は盗塁が控えて犠打を多用したが、序盤からの犠打戦略が得点に繋がるような有効な戦略だったかというとかなり疑問が残る。


 U18野球ワールド杯を、どうしても高校野球の感覚で見がちですが、集まっている選手はプロ野球のドラフトにもかかるような同世代のトップ選手です。采配やチーム編成の視点は1つの高校を率いるのとは考え方が違ってくるのだと思いますが、中々普段高校野球で行っている戦い方を変えるのは難しいでしょう。そこで、例えばプロの元スカウトや指導経験のある元プロ野球選手を首脳陣に添えるのも”あり”ではないかと思います。選手の方もプロの考え方を学ぶチャンスですし、良い経験に繋がると思います。もちろん、大人の事情があって現実的には難しいのだろうと思いますが、日本のトップの選手を毎回集めて1回も優勝できないのですから、思い切った策を選択してもいいのではないかと。


以上、今回も当サイトをご覧いただきありがとうございました。

0コメント

  • 1000 / 1000