台湾CPBLの”打高投低”は投手が悪いのか?

今年はコロナウィルスの影響でメジャーリーグや日本プロ野球のシーズン開始が遅れたため、台湾プロ野球CPBLや韓国プロ野球KBOなど日米以外のプロ野球を目にする機会が増えたのではないかと思います。筆者の場合、特にCPBLの動画がYoutubeのお勧めに良く出てくるのでそれをよく見ているのですが、CPBLのハイライト動画は割と長めなので、失策シーンも結構流されます。エラーが多いのは前から分かっていましたが、ふとした疑問が沸き上がりました。『CPBLは”打高投低”と言われるが、投手じゃなくて守備が悪いんじゃないの?』...。ということで今回は、台湾プロ野球CPBLと日本プロ野球NPBを比較して、CPBLの”打高投低”を深堀していきたいと思います。


中信兄弟ミランダの成績から見る傾向

 まずはミクロな視点で見てみます。昨シーズンまで日本プロ野球でプレイし、今年台湾プロ球団の中信兄弟に加入したアリエル・ミランダ投手(SP/元福岡ソフトバンクホークス)の成績を見ていきましょう。

 ミランダ投手の今季の防御率は4.37(8/21時点)です。これはホークスからリリースされた昨季の日本での成績よりも悪い数値です。奪三振率SO/9や与四球BB/9といったスタッツは、日本時代よりも好成績をマークしていますが、被安打率H/9は日本時代よりも悪化しています。つまり、防御率が悪化した理由は、日本時代よりも”よく打たれている”からということになります。では、日本の打者より台湾の打者の方が打撃力があるのか?というと疑問が残ります。台湾の打者の方がパワーはあって強振してくる印象がありますが、例えば”台湾最強打者”という触れ込みで2018年に日本プロ野球に移籍してきた王柏融(OF/北海道日本ハムファイターズ)が活躍できずにいる事実からすると、そうとも言い切れないだろうと。

 ここでセイバーメトリクスの守備指標DER(守備効率)を見てみます。DERは本塁打以外のインプレーとなった打球の内、どれだけアウトが獲得できたかを表す指標です。成績の良かった2018年シーズンは、DERが0.793でインプレー打球の約8割がアウトになりました。一方で、今シーズンのDERは0.678とインプレー打球でアウトに出来た確率は7割以下。1割以上の差が発生しています。DERはチームの守備力を測る指標なので、もっと正確に分析するにはBatted Ballといった詳細な打球成績データ(例えば、ウェルヒット率などの強い打球が飛んだ割合)を調べないと結論は言えないのですが、数値から見る限り守備の影響は少なからずあったのだろうと思います。


リーグ全体から見る傾向

 次にマクロな視点で見ていきます。アジア各プロ野球リーグの投手スタッツです。今回は台湾CPBLにフォーカスしていますが、参考に韓国KBOのスタッツもついでに加えました。

 対戦打者に対する奪三振(K%)、与四球(BB%)、被本塁打(HR%)の割合を比較しました。台湾や韓国と比べると、日本の投手の方が奪三振K%や与四球BB%の割合が大きいことが分かります。つまり、それだけ日本の方が野手が守備でプレイに関わる機会の割合が少ない、ということになります。逆に言えば、台湾の方が野手が守備でプレイに関わる機会が、割合的に多いことになり、守備の良し悪しが与える影響も大きいということになります。1試合当たりのインプレー打球数も調べてみましたが、NPBよりCPBLの方が2本程度野手に飛んでくるインプレーの打球が多いことになります。(下表参照)


 次に各国のDERを見ていきます。

 CPBLの守備効率DERは、日本のそれよりもかなり低い値になっています。今度はこのDERのリーグ間の差と1試合当たりのインプレー打球数をかけて『日本の野手が守った場合に1試合あたりにヒットが何本減らせるか』を計算してみます。

 この結果から、日本の平均的な野手が守備についた場合ヒットが1本以上減る、という結果になりました。あくまで計算上の結果ですので、前述の通り打球の強さ等は考慮されていません。


 ここからはちょっとした遊びです。今度は②の結果を防御率に換算してみます。アウトの得点価値はリーグやシーズンによって異なるのですが、ここでは簡易的に計算できれば良いので、こちらのサイトに記載されているNPBの0.78としました。

Baseball Lab「Archives」 DERでチーム守備力を計測する ― 蛭川皓平http://archive.baseball-lab.jp/column_detail/&blog_id=8&id=32

 ③に対して、各国の1試合当たりの投球回数が微妙に違うので、それを補正したのが上記④の表です。④は『日本の野手が守った場合防御率がどの位減るか?』を表していて、ざっと平均して約0.9点程度変わってくることがわかりました。

 最後に④を実際の防御率に加えた結果が下の表⑤です。


失点率と防御率の差

 防御率は1試合当たりの自責点(投手の責任での失点)を計算した結果ですから、エラーによる出塁も含めた失点率との差も、守備力を表す指標として見ることはできます。

 結果は見ての通り、CPBLは失点率と防御率の差が非常に大きいことが分かります。それだけ失策が失点につながっているということです。イレギュラーが多いと言われる台湾の球場のグラウンドの問題とかもあると思いますが、CPBLのハイライト動画を見る感じでは送球捕球のエラーも多い印象なので、環境を言い訳には出来ない気がします…。


ちょっと中途半端な検証結果ではありますが、こんな感じでまとめたいと思います。

・台湾の方が野手の守備が試合に与える影響が大きい。1試合あたり2本程度 飛んでくる打球の数が違う。

・台湾の方が1試合にインプレー打球がヒットになる数が1本多い。防御率にして約0.9点分違っている。

・Batted Ballなどの打球データまで検証していないのでまだ正確ではないかもしれないが、CPBLの失点率と防御率の差を見る限り、やっぱり台湾の野手の守備がいいとは言い切れない。

 今回の検証をしてみての感想ですが、NPBよりCPBLの方が守備の重要性が高いのだとしたら、CPBLこそ打撃よりも守備指標を高く評価していく動きがあっても良いよいな気がします。または、日本以上に守備シフトを大胆に取り入れてもいいでしょうし、もっと守備面で工夫を凝らしていいように感じます。

~以上~

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