【LMB】メキシカンリーグの球場を研究する #1

 東京オリンピックでは国際野球ファンの期待虚しく全敗で姿を消したメキシコ代表。往年のスター選手である某・元メジャーリーガーを起用し続けた件に関しては、メキシコ球界の闇の部分が垣間見えた気がしますが、それにしても他のメキシコ代表選手も揃いにそろって打てなさ過ぎでした。過去 打高投低の国内リーグを擁する代表チームが、国際大会になると打てなくなるケースは多々見られましたが、メキシカンリーグの場合 他のリーグにはない特殊な環境があります。それはリーグの半数の球場が標高1,000m以上の高地に位置するという点です。

アメリカメジャーリーグで最も標高の高い球場であるコロラド・ロッキーズの本拠地”クアーズ・フィールド”。その標高1580mは日本で言うと阿蘇山の頂上くらいの高さです。しかし、その程度の標高はメキシカンリーグでは全体の7~8位くらいで平均のちょっと上でしかありません。上には上がいるということで、メキシカンリーグ1位はメキシコシティ・レッドデビルズのEstadio Alfredo Harp Helú。メキシコシティの標高2,240mは富士山で言う富士宮口の五合目位です。クアーズ・フィールドもその標高の高さのため打球への空気抵抗が少なく『打者天国』と言われる球場ですから、リーグの半分近くがそれに近い高度にある訳ですので異常な環境と言えるでしょう。超高地のメキシコシティやプエブラなどに所属している選手は言うに及ばず、平地のユカタン,キンタナロ―,ティファナ所属の選手ですらシーズンの半分近くは高地の球場でプレイする訳で、どうしてもメキシカンリーグの打撃成績を額面通り受け取るのは危険と言えるでしょう。(何せリーグ平均打率が2割9分近くもある訳ですからね…。)ということでメキシカンリーグを応援したい身としては、何とか国際大会でも通用するメキシカンリーガーを見出したく、暫くメキシカンリーグの研究に没頭したいと考えております。


研究その1:得点パークファクター

 まずはご存知パークファクター(以下PF)です。一応PFについて説明しますと『その球場が他の球場と比べてどのくらい得点が入り易いか(又はヒットが出易い)』を表す指標です。その球場のPFが1.1ならば、平均的な球場と比べて1.1倍得点が入り易い、ということを意味します。セイバーメトリクスが発展しているアメリカのお隣にあるメキシカンリーグなので、メキシカンリーグのPFもググれば簡単に出てくるんじゃないかと思っていたら全然出てこないこと…。仕方がないのでシーズン終了前ですが自力で集計してみました。本来、各打撃スタッツのPFは1試合ごとに打撃成績を調べていかないといけないので、球団数の多いメキシカンリーグを人力で集計を行うのは中々地獄の所業です。流石にそれはしんどいので、得点PFだけに絞って調べてました。そして、得点PFと標高の関係をプロットしたのが下の図です。

 久々に相関関係の高いグラフを見た気がします。『標高が高い球場ほど得点が入り易い』という傾向を”これでもか”という位に示しています。真ん中の標高1,120mくらいにあるのがラグナ・ユニオンのEstadio Revoluciónなのですが、標高1,000m位の球場が”得点の入り易さが平均的な球場”なのです。日本の球場のPFは主に球場の広さや形状などで左右されることが多いですが、上の図を見ての通りメキシカンリーグでは球場の広さや形状よりも標高の方が真っ先に影響することが分かります。


【参考】

 一応標高に球場の広さ(左翼/中央/右翼)も変数に加えるとPFの推定が可能になります。回帰分析の結果はこんな感じです。


メキシカンリーグのPF推定式(2021年シーズ途中)

=標高✕ 0.0002 ー (左翼 ✕0.0013+中央 ✕ 0.0020+右翼✕0.0016) + 2.54

 ※ 標高はメートル。左翼/中央/右翼の長さはフィート値。


この式を使えば、メキシコのどの標高の地にどんな広さの球場を作るかで、ざ~っくりPFが推定できます(そんなの誰が必要な情報なんだって話ですが…。)下図はその結果です。


研究その2:標高と打撃指標のPFの関係(中間報告)

 問題はここからなのですが、メキシカンリーグを分析する上で鍵となりそうなのが、得点PFよりも2塁打PFや本塁打PFなど『どの長打が出易いか?』だと考えています。先述の通り、メキシカンリーグのデータからPFを手集計するには、ある程度気合を入れて作業する必要があるので、その前に簡単に手に入りそうなデータを使って”当たり”をつける必要があります。メキシカンリーグの公式HPにはHOME戦だけのチーム打撃スタッツを見ることが出来ます。HOME戦は基本的にそのチームの本拠地で行われますから、ある程度標高との相関関係がどうなっているか感触が分かります。そこで、HOMEゲームの1試合当たりの長打数と標高の関係を見ていきましょう。結果は以下の通りです。


■標高と本拠地ゲームの打撃スタッツとの相関係数

    得点  0.76

 安打  0.62

    単打  0.40

 2塁打 0.62

 3塁打    0.56

 本塁打 0.43

 BABIP 0.67

 GO/AO   0.64

ここで『相関係数』について適当に説明すると、この値が1に近ければ近いほど、あるデータが増えればもう一方の対象となるデータも増える、と言う”正の相関(=比例みたいな感じ)”なるものに近づきます。上の数値から見て分かる通り、本塁打よりも2塁打や3塁打の相関係数が高い値になっている、ということが分かります。要するにこれは、標高が高い球場の方が長打が増える傾向はあるものの、本塁打よりも2塁打/3塁打の方が傾向がはっきりしている、ということを意味しています。でも、これ一見するとおかしいですよね?私も『標高が高くなって打球が飛びやすくなるのだから、一番影響がはっきり出るのは本塁打なのじゃないの?』と思いました。

そこでもう少し自信を深めるために、メキシコにしたら平均ちょっと上の標高の球場であるクアーズ・フィールドの2020年シーズンPFを見てみました。

 単打 1.08 /2塁打 1.133塁打 1.37/本塁打 1.10/GB 1.06/FB 0.98


確信…。メジャーの平均的な球場と比べもクアーズフィールドは、特に2塁打や3塁打が出易い。この結果からしても、恐らく標高が高い球場の方が本塁打よりも2塁打や3塁打の方が増える傾向が顕著に出るのだと思います。

で、それは何故か?気になったのは、クアーズフィールドのGB(ゴロ打球)とFB(フライ打球)のPFです。打球が飛び易いはずなので、フライ打球は増えそうなものですが、FBのPFを見ると寧ろ他の球場より低くなっています。メキシカンリーグHOMEゲームのGO/AOを見ても相関係数が0.64になっていますから、ある程度『標高が高いとフライよりゴロが増える』という関係は言えそうな気がします。


 ここからは完全に仮説&想像です。まず空気抵抗が少ないがために、フォーシーム系ストレート中心にマグヌス効果が薄れます。そうするとホップ成分が他の球場よりも少なくなるので、ボールの下を叩くようなフライ系の打球が少なくなる。一方でゴロ打球が増えるのですが、打球自体も空気抵抗が少ないので打球スピードが速くなります。そうすると、ゴロが速いので内野で捕球出来ない。また、外野手も守備位置の間を抜ける打球が多くなり、それが2塁打3塁打に繋がる。つまり『打球が飛ぶ』ことよりも『打球が速い』ことの方が得点増につながる要素として大きいのではないか、という事ですね。メキシコで行われる国際試合を見ていると『え?それが本塁打になるの?』というシーンが多いので本塁打の打合いのイメージが強いのですが、考えてみれば本塁打の回数よりも2塁打の方が数が多い訳で、標高による傾向も後者の方がはっきり出やすいのかもしれません。

 とか何とか言っていますが、付け焼刃感の胡散臭さ満載ですし何より仮説の域を抜けませんので、面倒臭いですがシーズン終了後のどこかで気合を入れてメキシカンリーグの各打撃スタッツPFの集計に取り掛かりたいと思います。ただその前にまずは何も考えずにメキシカンリーグの試合をぼ~っと見て楽しもうと思います。


~以上、今回もご覧頂きありがとうございました。~





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