リーグ内の戦力格差とチーム数の関係(後編)

前回に続いて後半です。キューバの国内リーグ”CNS”は、球団数の多さの割に戦力格差は大きくなく、CNSから選出されたエリートリーグ”CEL”においては、各チームの投手力が向上したことで打高投低の傾向が大きく改善されました。まず今回は、同じような球団数であるメキシカンリーグ(夏の方、以下LMB)を見てみます。


メキシカンリーグは資金力差

資金力格差のあるメキシカンリーグLMB。観客動員数でも韓国や台湾プロ野球並みの集客をしているチームもあれば、日本の独立リーグ並みのチームもあります。ビッグマーケットとスモールマーケットでの球団間で格差が大きいのが特徴です。LMBのチーム別の勝率分布を、MLBやNPBと比較するとこんな感じになります。

MLBやNPBは綺麗な山なりの分布をしていますが、LMB(緑)は台形の形をしています。勝率が最も低いチームでも3割はありますので「勝負はやってみないとわからない」と言えるだけの勝率ではありそうですが、逆にそういうコメントが付くチームがMLBやNPBよりも多いということでしょう。もっとも、プレイオフの枠が多いので最終的に優勝の行方は最後まで分かりませんが、戦力が競っているに越したことはない。資金力格差を是正するために、もっと積極的にリーグ内の資金を分配するような方向に向かっても良いかもしれません。



ニカラグアは2部制が良い?

個人的に応援しているニカラグアでは、夏の間に開催される全国選手権(通称、Pomares)球団数が20もある中で下位クラブの勝率が3割を切るチームもあり、戦力格差が顕著な状況です。

プロであるウィンターリーグの方が、球団数が5チームに制限され、各球団の勝率も3割後半~6割弱の範囲に収まっているのとは対照的です。ある意味すでにそういった”プロ”で興行的なウィンターリーグが存在している中で、サマーリーグであるPomaresの立ち位置が難しい所。あくまで『参加機会を平等に』という目的も維持しつつという事を前提に私見を言わせてもらうと、オープンリーグ化して2部制を敷くべきでしょう。Pomaresにおける下位球団の選手は、ウィンターリーグでプレイ出来る選手がほとんどいないでしょうから、球団の統合は球団の削減と大して意味が変わりません。そう考えると、欧州サッカーのような昇降格の入れ替え戦を取り入れた方が良いように思います。



格差の大きいオランダ

2022年から昇降格制度を廃止しているオランダ・フーフトクラッセ。しかしながら、上位は勝率8割を超え、下位は1割にも満たないことがあります。前述のメキシコLMBが18球団、ニカラグアPomares20球団に対し、フーフトクラッセは9球団と約半分。しかしチームごとの戦力格差は、前述の2つのリーグよりも大きい。この戦力格差を是正しようとすると、例えば1つの案として球団同士を統合する方法が考えられます。がしかし、上位のチームは単独で十分に投打両面の戦力が揃っているため、下位球団は仮に全部球団が統合されても対抗戦力になり得るかどうか微妙な所。では、下位球団と上位球団の組み合わせで統合したらどうか?予想される結果は、下位球団のレギュラー選手が上位球団の控え選手と出場機会を争うだけになり、リーグ縮小を招くだけの無意味な策になりそうな気がします。


そもそも何故ここまでの戦力格差が発生しているのか?欧州の場合、選手のチーム選択の自由を奪うとの観点からドラフト制度が認められていません。そのため、その中での戦力均衡策は手段が制限されています。それ故の次善策なのか、フーフトクラッセでは全9チームの総当たりで行われるレギュラーシーズン24試合の後、上位4チームと下位5チームにグループ分けすることで、シーズン終盤になるほど対戦相手の戦力差が縮まるフォーマットを採用しています。しかし、チーム間の戦力差自体が是正される訳ではないので根本の解決にはならず。『クローズドリーグ』に移行したからには、下位チームの戦力の底上げはリーグ運営において重要な課題となります。

即効性のありそうな対策としては、上位球団で出場機会の少ない投手(なるべく先発投手)を、下位球団に移籍させることでしょうか。強豪相手に勝てるようになるには、ロースコアのゲームに持ち込むというのが弱者の戦略。上位球団所属投手の中には、防御率が良いにも関わらず投球回の少ない選手が結構います。彼らが下位球団に移籍することで、上位球団相手でも競ったゲームを増やすことが出来き、リーグ全体のレベルもよりコンペティティブなものになると思います。それにはなるべく先発投手が適任です。現に2023年シーズンでは、WBCオランダ代表のファン・カルロス・スルバランが、ネプチューンズからRCHペンギンズに移籍し6月までプレイしましたが、全24試合の内の1/3である8試合に先発し防御率が1.04ですから、今季躍進した同チームへの貢献度は非常に大きかったものと思います。この着想は、MLBのルール5ドラフトと似たようなイメージなのですが、但し問題があって、ドラフト制度と同じく、所属チームは選手側に選択の自由がありますから、リーグ側が強制することが難しい。選手側に下位球団でプレイする上でのメリットを感じれるような仕掛けがないと厳しいです。



結局はどのレベルを目指すのか?

ここまでキューバ、メキシコ、ニカラグア、オランダなどのリーグを個々に考察してきましたが、各リーグ同士を比較してみます。

まず、チーム数の多い少ないと戦力格差はあまり関係ないことがわかります。例えば、16球団あるキューバのセリエ・ナシオナルの最高勝率は6割程度に収まっている一方で、9球団しかないオランダ・フーフトクラッセの最高勝率は9割に迫る勢いでした。結局のところ、戦力がどのように集まっているか、ということなのでしょう。『戦力均衡策』と言えば、アメリカンスポーツで様々な手法が取り組まれており、分配金、サラリーキャップ、ドラフト制などが挙げられますが、前者2つはプロスポーツとして十分なリーグ収入や給与があっての政策ですし、後者のドラフト制は欧州などでは適用できず、”言うは易し”で現状はなかなかハードルが高い。


戦力格差の問題は解決が難しいテーマなので、一旦棚上げにして別の問題を考えてみます。前編では、仮に戦力が均衡できたとしても、草野球ばりのお粗末なプレイが頻発しては見ごたえに欠け魅力は半減してしまいます。何をもって”お粗末”とするか、人それぞれの見方はあると思いますが、ここでは一例として、死球(HBP)や暴投(WP)の割合を見ていきたいと思います。死球も暴投も、どちらもストライクゾーンを大きく外した投球の記録なので、リーグ単位では投手の技量をある程度示しているのではないか、と考えています。因みに、2022年シーズンの世界各国のプロ野球リーグの死球&暴投率はこんな感じです。

NPB    0.60

MLB         0.76

NPB(2軍) 0.88

CPBL       0.92

KBO         0.93

3A            1.10

2A            1.34

1A+          1.44

1A            1.82

今回取り上げたリーグと比較すると、キューバ・エリートリーグは3A並み、メキシカンリーグは2A、オランダ・フーフトクラッセは1A並みの投球ミスの多さ、ということになるでしょうか。勿論”この指標がリーグレベルを表す”とまでは言えませんが、1つの基準くらいにはなるだろうと思います。

尚、戦力差の大きいフーフトクラッセでチーム別に見てみると、優勝したHCAWの死球&暴投率が1.28、準優勝のネプチューンズが1.54、3番手格のL&Dアムステルダムパイレーツが1.28と言う感じでしたので、同リーグの上位チームは概ね2A~1A+並という感じとなります。最下位のシリコン・ストークスまで行くと、死球&暴投率は3.20にまで下落。(尚、ストークスは2023年シーズンからフーフトクラッセから撤退しているのですが、戦力的にもこれ以上戦うにはしんどい所はあったのだろうと思います。)フーフトクラッセのリーグレベルを1A並みではなく、更に向上させていこうとするならば、1A平均の死球&暴投率1.82よりも悪い球団が全9球団中4チームありますので、下位半分の強化が必要となります。


結局は”どこのレベルを目指すか?”という事に集約されるという話で、実際に集められる選手の層という現実目線を持ちつつ、リーグ内のチーム数やフォーマットを考えていくのが肝要なのだろうと思います。



=以上=

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