前回の“はずれ”外国人を引かないために見るべき指標~打率編~に続き、今回は出塁率、長打率の予測方法の解説、そして獲る前に“はずれ”の確率が高かった外国人選手の例を紹介してみたいと思います。
出塁率は打率よりは予測しやすい
出塁率の計算式は、
出塁率=(安打+四球+死球)÷(打数+四球+死球+犠飛)
となっています。打率と比較すると、分子には四死球が、分母には四死球と犠牲フライが加わっている形ですが、打率を計算するのに必要な項目が全て含まれているのが分かります。ということは、打率が高ければ出塁率も高くなる関係にあるのですが、前回打率編で説明した通り、打率には予測が難しい“BABIP”(=本塁打以外のグラウンド内に飛んだ打球がヒットになった割合)が大きく影響するので、出塁率も打率と同様予測には限界があります。ただし、出塁率の式には四球が含まれており、この四球の多さは過去のデータからある程度予測できるため、打率よりも予測する際に材料が多いという違いがあります。
2017年シーズのプロ野球の打席結果の割合を見てみます。
これを出塁率が関係する要素だけ抜き取ると、下のグラフのようになります。
出塁率は打球結果のほぼ全てに関係しますが、その内の27.7%(=三振19.5%+四球8.2%)3割弱が過去のデータからある程度予測可能な領域となっています。ただ、BABIPの方は67.1%(=犠牲フライ+本塁打以外のヒット+打球アウト)と、影響がより大きいので予測できる範囲は踏まえておく必要があります。
出塁率の予測式
マイナー3Aでの打撃成績から、プロ野球のK%、BB%は以下のように計算しています。
NPBでのK% =0.8051×マイナー3AでのK% +0.1024
NPBでのBB%=0.6408×マイナー3AでのBB%+0.0354
そして、出塁率はBB%とK%との差“K-BB%”から次のように算出しています。
NPBでの出塁率=0.3876-0.4127×NPBでのK-BB%
三振が少なく四球が多いほどK-BB%は少なくなり、K-BB%が少ないほど出塁率が高くなる、という構造です。
長打率の予測には、まずIsoPから予測する
次に長打率です。長打率の予測式は塁打÷打数で計算されます。塁打は、安打を進んだ塁の数に置き換えたものです。
塁打=単打×1+二塁打×2+三塁打×3+本塁打×4
長打率は、打率とも似ていますが、違いは安打数を塁打数に置き換えた所になります。こちらも打率が高ければ長打率も高くなる傾向はありますが、長打の多いパワーヒッターならば打率が低くても長打率の指標は高くなる場合があります。前述の通り、打率の予測はBABIPの影響で予測が難しいので、長打率の予測にも限界はあります。
一方で、セイバーメトリクスの中には長打率から打率を引いた“IsoP”(=Isolated Power)という指標があります。IsoPは、アベレージヒッターでも高くなってしまう長打率の特徴を踏まえ、純粋な長打力を計測するのに考案されました。予測が難しい打率の部分が除かれているため、シーズンが変わっても安定した値が計測されると言われています。当サイトでは、長打率を直接予測するのではなく、打率の予測結果に比較的予測し易いIsoPを足し直すことで長打率の予測値をはじき出しています。
2017年の打撃結果と長打率とIsoPの関係項目だけ抜き出すとこのようになります。
三塁打はそう多く出ないため、二塁打や本塁打の多さがIsoPに影響します。問題は、前回記事で説明した通り、マイナー3Aでの本塁打の多さは日本のプロ野球では参考にし難いという点です。それだけ日本のプロ野球が、他の国の野球との違いがあるということになるのですが、とは言え予測に使う材料がこれしかないので、マイナーでのIsoP成績から予測しています。
NPBでのIsoP=0.4493×マイナー3AでのIsoP+0.0878
正直、この数式は精度が低いので日々改良を重ねていて、今回は割愛しますが今使っている数式はかなり複雑な式になっています。
シーズン前から“はずれ”だと思った外国人
ここで具体例を見てみます。2017年シーズンに福岡ソフトバンクホークスが獲得したカイル・ジャンセン。
日本に来る前年には、3Aで本塁打30本、長打率.546と、もの凄い活躍をしていました。しかし、内容としては三振が多く四球は少ないフリースウィンガーで、3Aで活躍したこの年のBABIPは.373と異常に高い値。要は“出来すぎ”だったのです。予測結果を見ても、打率は2割を切るだろうという結果で、いくらパワーがあろうとも“外れ”だろうと思っていました。結果は出場機会も恵まれず、17試合で打率.083と1割以下。予測成績よりもさらに悪い結果でした。
スカウトが素晴らしい!予測を上回った“あっぱれ” 外国人
逆に予想を上回った例を見てみましょう。2015年に中日ドラゴンズが獲得したダヤン・ビシエドです。キューバ出身のビシエドは、メジャーリーグにいた時期はボール球も積極的に打ちに行く三振の多いフリースウィンガーとして有名でした。5年間メジャーで活躍しましたが、2015年はシーズンを通して3Aのままメジャー昇格はありませんでしたが、三振の多さや四球の少なさは少し改善の兆候がありました。
予測では、打率.251/長打率.412と見ていましたが、蓋を開けてみると打率.274/長打率.486と、打線の主軸として予測を大きく上回る活躍でした。ここまで活躍できたのは三振が少なかったことが大きいです。日本はアメリカよりも変化球の割合が多く、普通日本に来ると三振が増える傾向にあるのですが、ビシエドの場合は日本のピッチャーとの相性が良かったのか、本人の努力が実ったのか、素晴らしい結果に繋がりました。マイナーでの変化やビシエドのバッティングの特徴を上手く捉えた中日スカウトの目利きが“あっぱれ”だったことが分かります。
こんな感じで来シーズンの外国人打者の合格/不合格ラインを、事前に見定めると面白いかと思います。
以上、今回も当サイトをご覧いただきありがとうございます。
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