『プロ野球に参戦したらシリーズ』特集を中心に、当サイトではMLBやマイナーリーグでの成績から、その選手がプロ野球でプレーした場合成績がどうなるかを予測しています。そこには過去異なるリーグでプレーした選手達の実績から得たデータがありまして、両リーグでの成績の関係性を分析したノウハウを使っています。今回はその成績予測方法の一部を特集したいと思います。来シーズンも各球団が新外国人選手を獲得すると思いますが、彼らがどの位期待できる選手なのか?参考にして貰えれば幸いです。
そもそもマイナーの成績を見て意味があるのか?
ということで、今回は“打者”を見ていきたいと思います。そもそもの話ですが、そんなに簡単に外国人バッターの成績を見極められるなら、どの球団も苦労はしません。当然のことながら予測が難しいから各球団スカウトが必要なのであって、それは同時にマイナーでの成績からは分からない部分の影響が大きいことを意味しています。例えば、『日本の練習方法や文化に適応できるか?』という数値(成績)に表れないことも重要な要素です。
一方で成績だけでも分かる情報もあります。とは言っても、いくら来日前にマイナーで圧倒的な打率を誇っていても、日本では全然ダメな結果だった外国人は過去に巨万(ごまん)といました。それでは様々な打撃指標の中で、どんな指標に“意味”があるのでしょうか?
上の表は、プロ野球1年目のシーズンの打撃成績と、来日前年(もしくは帰国後1年面)のマイナー3Aでの成績の相関関係を示したものです。この表の“相関係数”という数値は、2つのデータの関係を示すもので、数値が“100%”に近いほど、マイナーでの成績が良ければプロ野球での成績も良くなる傾向がある、ということを表しています。相関係数が“0%”に近い場合は、マイナーでの成績が良かろうが悪かろうが日本での成績には関係がない、ということを意味しています。相関係数の目安としては、70%を超えるものは“関係あり”、40%を超えるものは“やや関係あり”といった基準になります。
打率よりもK%とBB%を見るべし!
見ての通り、「打率」、「長打率」、「出塁率」といった代表的な打撃成績は、非常に低い相関係数を示していて、これはマイナーでの打率や長打率、出塁率を見ても参考にならないことを意味しています。一方で、三振の多さを示すK%(=三振÷打席数)は“76%”と、非常に高い相関係数を示していて、これは『マイナーで三振が多い打者は、日本でも三振が多い』ということをデータで示しています。次に四球の多さを示すBB%(=四球÷打席数)が“53%“と、ある程度関係があることを示しています。よって、K%(三振の多さ)とBB%(四球の多さ)は、マイナーリーグでの成績を見ても意味はあるようです。
予測式は以下の通りです。
NPBでのK% =0.8051×マイナー3AでのK% +0.1024
NPBでのBB%=0.6408×マイナー3AでのBB% +0.0354
本塁打の多さは参考になるか微妙
次に本塁打についてです。“HR/PA”は本塁打の数を打席数で割ったもので、本塁打の多さを示しています。HR/PAの相関係数は“35%”とK%やBB%と比べて低い値で、“やや関係あり”と言うにも少し言い過ぎなレベルです。HRが多いパワーヒッターは日本に来て急に筋肉が衰えることはないでしょうから、一見マイナーの成績と何か関係があるのでは?と思えそうですが、一旦どういうことでしょうか?
ここで、お隣の韓国のプロ野球リーグ『KBO』と、マイナー3Aの両方でプレーした選手の打撃成績の相関を見てみます。K%とBB%の相関係数が高いのは日本と同じですが、HR/PAは日本よりも高い値を示しています。韓国ではマイナーでの本塁打の多さは参考にして良さそうなのです。これが何を示しているのか?恐らく、これは「日米の野球スタイルの違い」が表れているのだろうと思います。韓国の野球はアメリカの野球スタイルに近い部分があって、“かわす投球”よりも“真っ向勝負”が日本に比べて多いのだろうと思います。他にも色々な要因が考えられますが、例えば球場の広さは日本の球場が、マイナーや韓国に比べて特に大きいということも無いですし、一番は投球スタイルなのではないかなと思います。バットがボールに当たらなければ、当然本塁打にはならない訳で、変化球の多い日本のスタイルに対応できるかが、マイナーで培ったパワーを活かせるかどうかの鍵となるようです。
K%やBB%からどうやって打率を予測するのか?
マイナーでの打率成績が参考にならないことは分かりましたが、K%やBB%だけではその外国人打者がどれだけ活躍するかイマイチ分かりません。やはり、一般的な打率/出塁率/長打率あたりが分からないと、その選手の期待度が分からないのではないでしょうか?そこで、まず“打率”という指標について深堀りしてみましょう。
打率は、ヒット数を打数で割ったものです。分母の“打数”を分解してみると、大雑把に言えば、バットに当たった打球の内、犠牲バントと犠牲フライを抜いた数に、三振数を加えたものになります。打率を語る上で欠かせないのが、『BABIP』というセイバーメトリクス系の指標です。BABIPとは、「本塁打以外のグラウンド内に飛んだ打球がヒットになった割合」を示す指標で、になります。
打率の分母である“打数”とBABIPの分母を比べると、本塁打と三振が無くなり代わりに犠牲フライが足した形となっています。分子には本塁打が含まれていません。打率とBABIPでは、計算式がかなり異なっていますが、何故この2つは関係があるのでしょうか。
2017年シーズのプロ野球の打席結果の割合を見てみます。
これを打率とBABIPの計算式が関係する要素だけ抜き取ると、下のグラフのようになります。
これを見ると、打率とBABIPの違いは、三振が含まれるかどうかの違いに近いことが分かります。犠牲フライや本塁打は打席全体に占める割合が少ないので、打率やBABIPにおける影響が少ないのです。つまり打率というのは、ほとんどBABIPと三振の2つから構成されているのです。そして、打率に対してBABIPが3/4程度、三振の方は2割程度の影響を及ぼしています。
だけどBABIPが1番予想つかない
BABIPが一番打率に影響を及ぼすのですが、一方でBABIPは非常に不安定な指標で、打率の予想をする上で最も厄介な存在になっています。前年BABIPが良かった選手が、次の年も高いBABIPを示し難い(相関係数は21%)と言われています。更にBABIPは44%が運によるものだという研究結果もあって、はっきり言って現時点予測する良い方法は無いと考えています。引っ張り率(Pull%)とかフライ率(FB%)とかもっと細かい打球データがあれば、多少BABIPを予測する方法もあるのかもしれませんが、現時点ではここが限界お手上げです。
ただし、打率の内2割程度影響を及ぼしている三振の部分は、マイナーでの成績が参考になります。見方を変えてみれば「打率の予測は難しいけど、三振が多いことはマイナスな要素であってプラスに効くことはないだろう」という風に考えることが出来ます。ということで、限界も知りつつ以下のような数式で計算しています。
NPBでの打率=0.373-0.5272×NPBでのK%
K%の高いバッターはギャンブル要素が高い
獲得した外国人バッターがマイナーで三振が多かった場合、その選手にハイアベレージの打率を期待するならば、三振以外の成績(つまり高いBABIP)に期待するしかなくありません。しかし、そのBABIPは予想がつきにくい指標ですので、当たる/当たらないは賭けになります。
なので、皆さんのファンの球団がもしK%の高い外国人バッターを獲得したならば、球団はそもそも高い打率は期待していないか、“掘出しもの”か“外れ”かのどれかになります。
続いて「出塁率&長打率編」ですが、長くなったので次回に続きます。
以上、今回も当サイトをご覧いただきありがとうございます。
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