【コラム】鷹スチュワートと『55.5万ドル』の分岐点

昨年MLBアトランタブレーブスからドラフト1位指名を受けながら契約合意しなかったカーター・スチュワートJr.が、日本のプロ野球球団 福岡ソフトバンクホークスと契約しました。契約額は6年700万ドル(=約7.7億円)と言われています。


日本に来る外国人選手の分類

ひと昔まで日本のプロ野球球団が獲得する外国人選手は、主にメジャーとマイナー3Aクラスを行き来するような選手がほとんどでしたが、最近は少しずつその様相が変わってきています。まず、広島カープや読売ジャイアンツを中心に”育成”目的で安価な年俸で獲得された中南米系の選手の存在です。高い身体能力を持つ選手が多く、1軍でちょっと活躍してくれればコスパが非常に良いため、この手の選手は増加傾向にあります。

また一方で、メジャー経験の多い選手も増えています。メジャーのFA市場が史上稀に見る停滞が続いていることで大物選手がなかなかメジャー契約を勝ち取ることが出来ずにいます。FAマーケットを冷静に見極めた上で、判断として日本を選ぶケースが始めてきています。今季から読売ジャイアンツに加入したメキシコ出身のクリスチャン・ビヤヌエバ(3B/読売)は、前年の2018年シーズンにメジャーで110試合も出場していましたから、バリバリのメジャーリーガーでした。同じく今季から阪神に加入したジェフリー・マルテ(1B/阪神)も昨季メジャー90試合に出場、マイナーリーグよりもメジャーでの出場試合数が多かった選手です。(外国人ではありませんが、青木宣親(OF/東京ヤクルト)が日本球界に復帰した背景にもFA市場の停滞が少なからず影響したと思われます。)つまり、メジャーと3Aを行き来する選手だけでなく、最近は育成目的の安価な選手と実績のある中堅メジャーリーガーというカテゴリーも出始めており、年俸で見ると上下に幅が出始めてきています。


スチュワートJr.の契約のポイント

そんな中、カーター・スチュワートJrが福岡ソフトバンクホークスと契約した内容は、過去のどのパターンにも当てはまらない異例づくしの契約と言えますが、ポイントは2つだと思います。

・育成目的でありながら”高額”

・6年という”長期”契約

日本では基本的に”実績”が契約年俸のベースとなります。新外国人選手だと日本での実績はありませんが、マイナー3Aやメキシカンリーグ、韓国プロ野球など、”プロ”での実績が評価されます。なので、どれだけポテンシャルがあると言われている若手選手でも、プロでの実績が乏しければ、数億円どころか数千万円の契約さえ結ばれることはありません。福岡ソフトバンクホークスの場合も例外ではなく、”キューバの大谷翔平”と呼ばれるオスカー・コラス(OF/福岡ソフトバンク)というキューバトップクラスのプロスペクトが所属していますが、そのコラス選手でも推定年俸は1,000万円と言われています。一方、スチュワートJrが結んだ契約は、プロでの実績が全く無いにも関わらず、年平均にして117万ドル(=約1億3,000万円)と高額で、ある程度実績のある新外国人選手の年俸と遜色ありません。また、外国人選手の契約の多くは単年契約で、長くても3年契約くらいなものですが、スチュワートJr.の場合は6年という外国人選手としては異例の長さです。

一見するとその年俸額や契約期間は驚くべき数値ですが、これらをよくよく読み解いて行くと、それなりの妥当性が見えてきます。

上のグラフは、今シーズンプロ野球に所属している外国人選手の年俸分布です。下から見ていきますと、”育成”レベルの選手は年俸10万ドル以下の契約を結んでいます。日本人でも新人クラスの選手はだいたいこの辺の年俸になります。スチュワートJrが”新人扱い”されているならば、この程度の年俸になるはずですがそうはなっていないことはスチュワートJr.が戦力として見られていることを意味しています。

次に、一般的に即戦力として見られている外国人選手は、年俸30万ドル以上150万ドル以下が多くを占めます。MLBのメジャー最低保証年俸が約55.5万ドルと言われています。メジャー契約の境目がだいたいここら辺だと考えると、メジャー契約を結べるかどうか微妙な立場の選手にとって、55.5万以上の契約が結べるならば例え舞台がアメリカでなくともかなり魅力的と言えます。つまり、この『55.5万ドル』という額が、1つの分かれ目になっています。(因みに、お隣の韓国のプロ野球で活躍している外国人選手も、年俸はだいたい50~100万ドルの契約を結んでいて、マイナーリーグよりだいぶ良い条件でプレイしています。)

更に、150万ドル以上の年俸を得るには、日本で実績を得る必要があります。例えば、ドリス(RP/阪神)が155万ドル、ボルシンガー(SP/千葉ロッテ)168万ドル、ウィーラー(OF/東北楽天) 182万ドル、・・・と、どの選手も日本で少なくとも1年は実績を残しています。日本での実績がなく150万ドル以上の契約を結んでいるのは、C・ビヤヌエバ(3B/読売)200万ドル、E・ロメロ(SP/中日)250万ドルの2名だけです。


実はお買い得かもしれない6年700万ドル契約

スチュワートJr.はまだ若干19歳。6年契約の内、最初の2年位は投資期間として、費用対効果は考えていないと思います。そうすると、総額700万ドルの契約に対して実質稼働4年とみなすと、1年あたり175万ドル(=700万ドル÷4年)と考えることができます。尚、175万ドルという額でプレイしている外国人選手を挙げると、アルバース(SP/オリックス)182万ドル、ディクソン(SP/オリックス)198万ドル、辺りが該当します。もし、仮にスチュワートJr.が順調に成長して、ダルビッシュや田中将大、前田健太など球界を代表するレベルの選手になるならば、年175万ドルというこの契約は、実はかなりお買い得にも見えます。

更には福岡ソフトバンクホークスでは多くの外国人選手を抱えています。投手で言うと、デニス・サファテ(RP/福岡SB) 年俸5億円、バンデンハーグ(SP/福岡SB)年俸4億円と高額プレイヤーがいますが、この2人は年齢的にベテランの域に達しています。数年後、彼らが球界を去るとなると、その数億円単位の高額年俸の負担も無くなります。福岡ソフトバンクホークスがお金持ち球団であることは間違いありませんが、かといってコストパフォーマンスが悪いという訳でも無いのがこの球団の抜け目の無い所です。

もちろん、スチュワートJrが全く育たず、外れ外国人になってしまった場合、6年契約という長期契約は相当なリスクとなります。ただ一方で、もし単年契約で且つスチュワートがコンスタントに日本で活躍したとすると、その年俸は簡単に175万ドル(約2億円)を超え、最低でも年俸3~5億円位支払わないといけない状況になってしまいます。そう考えると長期契約とは言え、活躍した場合はかなりリーズナブルな契約とも言えます。

スチュワートJrの契約は、結構よく考えられた額に見えます。ただ、その根底にはホークス球団の緻密なスカウティングが合って意思決定に踏み切れたのだと思います。その判断が正しかったのか分かるのは数年後ですが、果たしてどうなるか?要注目です。


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