なぜキューバ代表がここまで勝てないか?徹底して考えた~前編~

 かつて野球の強豪国だったキューバ代表は、ここ数年国際大会で活躍できなくなっています。特に2019年は酷い状況でした。これまでWBCでは第2次ラウンドまでに必ず進出し、世界の8強入りで何とか面目を保っていたキューバ代表が、マイナーリーガーの参加すらまばらなパンアメリカン大会でめさかの6位。続いて、東京オリンピックの出場権がかかったプレミア12でも1次ラウンドで早々に敗退、侍ジャパンとは試合することすら出来ませんでした。しかし、敗退したキューバ代表メンバーには日本のプロ野球の第一線で活躍している選手も多く含まれていました。プレミア12では福岡ソフトバンクホークスから、アルフレッド・デスパイネ、ユリスベル・グラシアル、イバン・モイネロ、中日ドラゴンズからライデル・マルティネスが参加しています。パンアメリカン大会でもデスパイネ以外の3選手は参加しています。相次ぐ主力選手の亡命で弱体化しているとは言え、他の参加国と比べても決して戦力的に遜色ないメンバーが揃っているはずなのですが、どうしてここまで勝てないのか?ずっと疑問でした。

 キューバ代表は来る3月に東京オリンピック出場権をかけて、アメリカ地区の予選に参加します。予選1位の国が東京オリンピックに出場できますが、仮に負けたとしても予選2位か3位までに入れば最終予選への出場権が与えられ可能性が残されます。しかし、アメリカ地区予選には、プレミア12で出場権を逃したアメリカ代表やドミニカ共和国代表、ベネズエラ代表といったたくさんのマイナーリーガーを抱えるチームや、近年キューバの天敵となりつつあるカナダ代表も参加します。これら実力国の中で予選1位になるのは至難の業ですが、2位や3位ですら本来の実力すら出し切れていない今のキューバ代表にとって大変困難な状況に見えます。しかし過去のような圧倒的な力は見せれずとも、キューバ 代表には野球が国技である意地を見せてもらいたい。そこで今回は、キューバ代表が何故勝てなかったのか?徹底して検証してみました。


パンナムとプレミアの敗因は違う

8月にパンアメリカン大会の特集をした時、敗因は『先発の質』と『救援の薄さ』と分析しました(【パンアメリカン競技大会】完敗のキューバ。コロンビアとニカラグアが東京五輪アメリカ予選進出)。

パンアメリカン大会では、シンプルに点を取られ過ぎました。まず先発が誤算で大量失点してしまいます。その後モイネロなど第2先発は何とか持ちこたえますが、その後のリリーフ陣がダメ押し点を与えてしまいます。

今回のプレミア12ではダメだった投手陣が良くないながらも奮闘します。

最終戦の韓国戦こそずるずる失点してしまったものの、最初の2試合はパンアメリカン大会とは全く違う展開となりました。先発はヒットを打たれ四球を出しながらも、何とか少ない失点で回を稼いで、救援陣も頑張りました。キューバ代表のミゲル・ボロト監督も、投手陣には合格点を出しています。誤算だったのは打線でしょう。

以下はプレミア12での主力選手のSTATSです。

 デスパイネ 打率.167 /出塁率.167/OPS .167

 グラシアル 打率.000 /出塁率.000/OPS .000

デスパイネはヒット2本のみ、グラシアルは1本も打てずに大会を終えました。大会中、キューバの打順は若干いじっていますが、NPB組である3番グラシアルと4番デスパイネは動かしませんでした。二人とも日本シリーズ後の久々の実戦でほぼぶっつけ本番の中、明らかにコンディションは良くない様子でしたが、それでもミゲル・ボロト監督は最後まで中軸で起用しました。主力選手の調子が上がらないことは、国際大会でもよくあることです。日本ならば2009年の第2回WBCで、イチロー選手が最後の決勝戦になるまで不調が続きました。今大会でも準優勝の韓国で4番を務めた朴炳鎬(1B/キウム・ヒーローズ)は最後まで長打がありませんでした。しかし、日本や韓国は主力が不振でも1次ラウンドを勝ち抜く戦力を持っていました。つまり、『我慢して起用』できるのはそれだけの戦力的な余裕があるからなせる戦略なのであって、1次ラウンドを勝ち抜けるか分からないキューバ代表にとって”我慢”は自殺行為でした。では、彼らに変わって打てる戦力はいたのか?他のキューバ代表打者の成績を見てみましょう。

見ての通りデスパイネ、グラシアルだけでなく他の打者も打てていません。ただ1人打てている選手がいます。超ベテラン38歳のヨルダニス・サモン(1B/インダストリアレス)です。5本のヒットと1個のフォアボールで、出塁率は5割を超えていました。プレミア12の前に開催されたパンアメリカン大会でも打率は4割を超えていて、明らかに好調をキープしている選手でした。そして、大会通じて1番打者に起用し続けられた元千葉ロッテのロエル・サントス(CF/グランマ)がそこそこは打っていただけに、デスパイネとグラシアルの打順を固定したことで、サントスとサモンの間が空けてしまったのは勿体ない感じがします。打順において大事なことは、得点力のある選手を繋げることです。結果論的かもしれませんが、好調なサモンをグラシアルの代わりに3番に起用すれば、ロエル・サントスを本塁に還す回数が増えただろうと思います。『打線は水物』とは言いますが、そう片付けてしまうのは流石に如何なことだろうと思えました。選手のコンディションを見誤った起用や打順が、1次ラウンド敗因の1つになったのではないかと思います。


キューバリーグの特異性

それにしても、これまでメジャーに何人もの優秀なバッターを輩出してきたキューバが、こうも手が出なくなるものなのか?打高投低とは言え、キューバリーグで打率3割以上をマークいしてる選手達ですから、もう少し世界の舞台でも通用しても良いような気がします。そこでキューバリーグでの成績とキューバ国外での成績を比較してみたいと思います。

まずは、日本や韓国などアジア各国のプロ野球リーグとキューバリーグ”Serie de Nacional”を比較をしてみます。打撃成績です。

キューバの四球の多さ(BB%)は、他のリーグを大きく上回る10%でした。これはキューバの打者の選球眼が良いことを示している・・・、となるのではなく、むしろ投手の制球力がないので、他の国のリーグより四球を選ぶのが簡単なのだろうと思います。キューバ代表監督のインタビュー記事や書籍を見ると、国内リーグのピッチャーのコントロールの悪さを嘆くコメントをいくつも見かけますので、そう考える方が自然です。また、残念ながら(?)キューバでは伝統的に打者の方が多くのタレントを輩出してきており、投手で有名な選手はそれほど多くありません。ここがキューバの泣き所でもあります。

一方で三振の多さ(K%)は、これも他のアジアのリーグと比べて圧倒的に低い12.2%。これもキューバのバッターからは中々三振が取れない・・・、のではなく、全体的に早打ちのため追い込まれる前に来たボールに手を出してしまう、という傾向が出ているのだと思います。何年か前に、MLBの選手のP/PA(=1打席当たりの被投球数)を国別に調べたことがあるのですが、ラテン系の中でもベネズエラと並んでキューバは特に少なかったでした。打者の早打ちだけでなく、投手のコントロールが悪さも加担していると思われます。打てそうなボールが来ず、そのまま四球になってしまうのでしょう。

また、2019-20年のシーズのキューバリーグのゴロ/フライアウト率(GO/AO)は1.49。通常は1.08とか1を若干超える程度なのですが、キューバリーグの1.49という数値がいかに異常なことかが分かると思います。これだけゴロの打球が多ければ、飛球も少なくなるのでホームランの多さ(HR%)も圧倒的に少ない訳です。キューバの一般的なイメージは、パワフルな打撃のイメージを持っている方が多いのではないかと思いますが、数値から見るとHRはかなり少ないのです。

これらから言えることは、制球力に苦しむピッチャー陣を、早打ち傾向のバッターが助けてしまっている構造が見えてきます。


今度は投手成績を見ていきます。投手成績と言いながら、ここから分かるのは守備の悪さです。

 キューバリーグの防御率(ERA)は4.53。これは日本のプロ野球よりは多いものの、韓国や台湾リーグよりは少ない数値です。しかし、問題は失点率と防御率との差です。野手の失策で出したバッターの得点や、3アウト目を獲ろうとしたときに野手のエラ―した以降の失点は防御率には含まれません。失点率と防御率の差が多いということは、それだけ守備の綻びから失った点がそれだけ多いということになります。一方、チームの守備力を測るセイバーメトリクスの指標「DER(=守備効率)」で見るとキューバリーグのDERは.685で、韓国KBOや台湾CPBLのDERと比較して若干良い値になっています。しかし、DERはゴロアウトの割合が多いと良い値になり易い傾向があり、キューバリーグの方が韓国や台湾リーグと比べて守備がいいという見方をしてしまうと誤ってしまう可能性があります。キューバリーグのプレーオフの試合などみても、簡単なフライをうっかり落としたりゴロをトンネルしてしまったり、日本のプロ野球を見ていると中々みれないイージーなミスがたまに見かけます。キューバが国際大会に参加し上位を狙うためには、守備力の向上も課題の1つとなるでしょう。


対照的な2人のベテラン  セペダとサモン

キューバ代表は、キューバリーグの中でもトップクラスの成績をマークした優秀な選手が集められた集団です。特にバッターは3割打てて当り前、中には4割バッターもいます。「キューバリーグの成績がより上位に来ている選手の方が、海外でも活躍できる可能性が高い。」そう考えても良い気がしますが、必ずしもそうなっていないのがキューバリーグの成績の難しい所です。

昨年キューバ代表は多くの海外遠征や国際大会に参加してきました。米国/カナダにある独立リーグ”Can-Am League”に参戦したり、ニカラグア代表や米国大学生代表との試合、パンアメリカン大会、そしてプレミア12と、全て合計するとかなりな試合数となりました。これらの試合とキューバリーグでの成績を比較したものが以下の表です。

キューバリーグでは14打席にしか立ってグラシアルは除くとして、OPS上位にはキューバを代表するベテラン2人、39歳フレデリック・セペダ(OF/サンクティ・スピリトゥス(元・読売))と38歳ヨルダニス・サモン(1B/ラス・トゥナス)が入っています。キューバで大活躍の2人ですが、キューバ国外での成績は明暗がくっきりと分かれています。この2人を分析すると、国際大会で打てる打者とそうでない打者の違いが見えてきました。だいぶ長くなってきたので、続きは後編で。

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