WBCアメリカ代表をWAR視点で分析~第4回メンバーは何が違ったのか~

 WBCが開催される度に『WBCに出場するアメリカ代表が本当のフルメンバーでは無い』という類の批判を聞きます。確かに『誰々が参加してない』だの『誰々が辞退した』だの例を上げたらきりがないのですが、アメリカ代表としてWBCに参加してくる選手の中には、前のシーズンに本塁打30~40本打っているような化け物がゴロゴロいる訳ですよ。なので、WBCアメリカ代表メンバーの分析をする度に『このメンバーでも十分反則じゃない?』と思ったりするのですが…。彼らが毎回優勝候補と言われるのも、彼らのスタッツを見れば誰しも納得すると思うのですが、一方でアメリカ代表がWBCのタイトルを獲得出来るまでに第1回WBCから11年かかりました。そして、初優勝を果たした第4回WBCアメリカ代表のメンバーは第1回アメリカ代表の豪華メンバーと比べると、”スター”というよりは”仕事人”タイプの選手が多かった印象が残っています。ただし、第1回WBCの豪華なアメリカ代表選手もそれだけの活躍していた訳であって、決して実力が無かった訳ではないと思います。なのに何故、第1回のWBCアメリカ代表メンバーは優勝できず、第4回のアメリカ代表は優勝できたのか?更に言うと、第4回メンバーと過去3大会のアメリカ代表との違いは何だったのか?今回はそこを考察してみていきたいと思います。


召集メンバーを前年のfWARで振り返る

 セイバーメトリクスの分野でお馴染みともなりましたWAR(Wins Above Replacement)。その選手がどれだけの活躍をし、チームに貢献できたかを表す指標ですが、第1回~4回までのWBCアメリカ代表メンバーが前年どれ程のWARをマークしてきたか振り返ってみましょう。fangraphs方式のfWARでは、6.0以上の数値をマークすれば、その選手はMVP級の活躍に等しいようですので、各大会メンバーからfWAR6.0以上の選手をピックアップしてみましょう。

第1回 5名

A・ロッド=9.1、C・アトリー=7.2、D・リー=7.0、D・ウィリス=6.5、R・クレメンス=6.0

第2回 5名

B・マッキャン=8.2、C・ジョーンズ=7.1、D・ライト=7.0、D・ペドロイア=6.4、K・ユーキリス=6.2

第3回 3名

R・ブラウン=6.8、D・ライト=6.6、J・ルクロイ=6.0

第4回 1名

B・ポウジー=6.7


更にチーム合計値も見ていきましょう。

 2006年第1回大会では出場選手登録が30名まで可能で、第2回以降の28名より+2名多いのですが、その2名分を差し引いてみてもチームfWARは100前後の値になります。このことから、以下に第1回WBCアメリカ代表メンバーが他の大会のアメリカ代表より如何に豪華だったかが分かります。そして、WARという定量的な視点で見ても、WBCアメリカ代表がスケールダウンしていることは間違っていないようです。第2回大会以後、回を経ることにfWARの値は減少してきています。しかし、大会成績を見ると、第1回から3回までの勝敗はずっと五分と苦しんでおり、WARとWBCの結果が全く関係ないことがわかります。


特に投手がスケールダウン

 WBCにメジャーリーガーが参加する際よく言われる説として、「シーズン前の3月に開催されるので、特に投手にとって調整が難しい」という話です。事実、アメリカ代表も野手は割と豪華メンバーが揃いますが、投手の召集には苦労しているようです。そこで、召集された投手の前シーズンのfWARを見ていきましょう。

 野手同様、第1回WBCメンバーが豪華なのは全体の傾向と同じです。先発投手のfWARも大会毎に下がってきています。しかし、失点率を見ると第4回大会が最も良い値をマークしています。まぁ、優勝したのだから失点率が一番低いのは当たり前と言えば当り前ですが、その要因は何なのか?

 失点率という指標は、(セイバーメトリクス的に言うと)防御率同様に様々なノイズが含まれています。さらに今回は短期決戦なので、対戦相手や球場の影響がもろに数値として出てきますので、一概にこれという答えは出し難いのですが、こんな切り口で見てみました。ずばり”守備”です。


守備が過去最強だった第4回メンバー

 こちらも毎度毎度お馴染みとなりましたセイバーメトリクスの守備指標”DRS”(=Defensive Runs Saved)です。日本ではUZR(=Ultimate Zone Rating)の方が浸透しているかと思いますが、個人的には月刊スラッガー(日本スポーツ企画社)でも多用されるDRSをよく使います。まぁ、そんな事は置いておいて、各WBCアメリカ代表メンバーが前シーズンにマークしたDRSを見ていきましょう。

見ての通り、fWARが最高だった2006年アメリカ代表のDRSが-37点と、大きなマイナスになっています。これはつまり、第1回WBCアメリカ代表は攻撃重視な選手選考で、守備のマイナスを打撃で上回るスタイルだったということを意味しています。しかし、第2回第3回アメリカ代表チームのDRSも、第4回のDRS+50点には及ばないものの、+20点前後をマークしていてそれほど悪くありません。

 ここで更に見方を変えてみました。各WBCアメリカ代表の大会の最後の試合に先発出場した選手の前年DRSをまとめみました。

 表中に「×」が部分は、最後の試合でそこを守った選手が、前シーズンにメジャーでその守備位置に1回もついてないことを表しています。例えば、第1回大会の最後の試合では、ショート本職のマイケル・ヤングがセカンドを守り、本来センターを守るバーノン・ウェルズがライトを、ライトを守るジェフ・フランコ―ナがレフトを守りました。二遊間とセンターは守備の要となるポジションですが、ショートを守ったディレク・ジーターの2007年DRSは-27点と大きなマイナスでした。もし自分が先発選手を選ぶ立場だったら、外野はV・ウェルズに本来のセンターを守らせ、ケン・グリフィーJrをレフトに回します。ライトは本職のJ・フランコ―ナがDRS+17点と前シーズン非常に優秀でしたから、その通りライトを守らせます。ケン・グリフィーJr以外は前のシーズンに優秀なDRSを記録している本職の選手がいるのですから、その通りに守らせた方が良いと思うのですが、第1回WBCで指揮を執ったバック・マルティネス監督は、何故かリスクが増えるような外野の配置をしています。因みにこの試合は、あのボブ・デービッドソン審判によるホームラン疑惑あったメキシコ戦です。外野守備が直接的な原因ではなかったかもしれませんが、起用にチグハグな面が見られました。

 また第2回大会でも、ディレク・ジーターがショートを守りましたが、前年のDRSは-10点。また、守備の良くないアダム・ダンがライトを守っていましたが、最終戦の日本戦ではライトのアダム・ダンに向けて狙い打ちされているような感じもしました。そして、この試合ではライトのアダム・ダンから力の無い返球を何度も見かけることになります。

 それと比べると、第4回WBCではブライアン・クロフォード(SS/サンフランシスコ・ジャイアンツ)やノーラン・アレナド(3B/コロラド・ロッキーズ)が好守備を連発しています。第4回大会では、他のチームも好守備が印象的な大会でしたが、アメリカ代表の三遊間も負けじと良いプレイを見せていました。この2人であったからこそ獲れたアウトもかなりあったと思います。特に、グラウンドボールピッチャーの多かったアメリカ代表投手陣と、守備の良い内野手陣との相性は抜群でした。日本の打者陣からすると相性が悪そうな相手ですね。一方外野ではアンドリュー・マカッチェンの中堅守備があまり良くなく、前年のDRSは-26点だったのですが、マカッチェンをライトを守らせることで弱点を上手くカバーしました。(その後マカッチェンは、所属チームではライトに定着していますので、WBCでの起用判断は正しかったという証明になりました。)


 ということで、第4回大会のアメリカ代表メンバーは明らかに守備が違った、という結論となりました。超短期決戦だからこそ1つのアウトを取るための守備力の重要度が高まっている、というテキトーなまとめで締めくくりたいと思います。


ちなみに、マーカス・ストローマン(SP/NYメッツ)が呼び掛けた次回WBCアメリカ代表のメンバーを見ると、ノーラン・アレナドとトレバー・ストーリー(SS/コロラドロッキーズ)のロッキーズの三遊間コンビが手を挙げています。アレナドの三塁守備は相変わらずハイレベルですが、ストーリーの守備も高いDRSをマークしていますので、次回WBCアメリカ代表メンバーも攻守にバランスの取れた布陣になりそうです。詳しくは下記の記事で。

~以上~

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