年齢曲線と代表チーム編成~オランダ代表~

セイバーメトリクスの世界には、年齢とパフォーマンスの関係を表した年齢曲線なるものがあります。

例えば打者の場合、

・本塁打率は26歳をピークにその後は衰えていく。

・三振率は28歳頃が最も低く、その後は悪化(上昇)していく。

投手の場合は、

・奪三振率は21歳前後をピークに、その後は下降していく。

・与四球率は26歳~36歳で横這いで、その後は悪化していく。

これらは集団の平均値ですので選手によって当然個人差はあるのですが、一般的にこういった傾向がある、ということは言えます。


ここ10年で躍進したオランダ代表

 近年、WBCやPremier12などの野球の国際大会が増えてきて久しいですが、それに伴って台頭してきた代表チームがいくつかあります。その代表格はオランダでしょう。第1回WBCでは、プエルトリコ,キューバ,パナマという中米の野球の盛んな国と同じ組で、1勝2敗で1次ラウンド敗退となっています。1勝を挙げたパナマ戦もどちらかというとアップセット的な見方がされていました。それが2009年の第2回WBCで優勝候補のドミニカ共和国代表に2度に渡り勝利し2次ラウンドまで進出しました。ただ、第2回WBCのオランダ代表の戦い方は、まだ”弱者の戦い”の域だったと思います。オランダの投手陣が奮闘し、強豪相手にロースコアに持ち込んで、接戦をモノにしたりしなかったりという戦い方でした。今見返してみると、この時のオランダ投手陣は”出来過ぎ”な感があります。

 流れが変わったのは2013年の第3回WBCで、内野を中心に今のメジャーを代表する選手が勢揃いしました。ザンダー・ボガーツ、アンドレルトン・シモンズ、ジョナサン・スコープ、ジュリクソン・プロファーと、二遊間にやたら豪華なタレントが揃ってしまい、彼らを何とか起用するため、普段守っていない守備位置で出場したりしています。それでも過去最高のベスト4進出を果たしました。前回2017年の第4回WBCでは、彼らは更に成長し2大会連続でベスト4進出。強力な打線は小久保監督率いる侍ジャパンを大いに苦しめました。番狂わせを起こした第2回WBCと第3回以降では、戦力バランスが変わっています。


オラニエの平均年齢

 ここでオランダ代表の国際大会別の平均年齢を見ていきます。

 少し太いオレンジ色の折れ線は、オランダ代表チーム全選手の平均年齢を示しています。ここから分かるのは、2013年以降着実に年齢が高くなっているということです。特に、投手陣の平均年齢を示す赤色の折れ線は、ほぼ大会の開催間隔と同じような増え方をしています。つまり、これはオランダ代表の投手陣がほとんど同じ顔触れで、そのまま年を重ねていることを示しています。オランダ代表の”レジェンド”ロブ・コルデマンスを筆頭に、ディエゴマー・マークウェル、シャイロン・マルティス、ジェア―・ジャージェンス、トム・ストイフバーゲン、オーランド・イェンテマ、、ここら辺の面子はほとんどの大会に出ています。今や投手陣の平均年齢は30歳を超えてしまっています。世代交代が巧くいっているとは言えません。

 まず主要国際大会におけるオランダ代表投手陣のスタッツを振り返ってみましょう。試合数の少ない国際大会では、防御率などの指標は対戦相手によって大きくバラつきそうなため、比較的投手の”傾向”が見れそうな奪三振率K/9や与四球率BB/9を、大会全体のスタッツとの差を見ることで検証してみます。

 上のグラフを見ての通り、オランダ代表の投手陣の奪三振率は、多くの大会で大会平均を下回っています。侍ジャパンや他の強豪国が、大会の奪三振率の平均を底上げしています。次に与四球率BB/9を見てみましょう。

 こちらは平均を上回ったり下回ったりしています。オランダ投手陣と言えば、ハイテンポでどんどんストライクゾーンに向かって投げ込んでくる、三振よりも”打たせて取る”スタイルのイメージがあると思いますが、実際スタッツにもその様子が表れているように見えます。因みに、強豪相手にロースコアで接戦を繰り返した2009年の第2回WBCでは、オランダ投手陣のスタッツを見るとBB/9は良くありませんし、奪三振も決して良い訳ではありません。WBC2009のオランダ代表の躍進は、投手よりも野手の守備に助けられた側面もかなりあるのではないかと考えられます。2019年第2回プレミア12の時点で、オランダ投手陣の平均年齢は30際を超えていますから、元々低いK/9は更に悪化し、BB/9も悪化する投手が徐々に出てくるだろうと考えられます。すると、四球で溜まった走者を痛打されて大量失点となるリスクが高まってきます。


メジャーリーガー擁する野手陣は?

   一方で、野手陣はどうかというと、意外と外野手(緑色の折れ線)が着実に高齢化しています。2015年の第1回プレミア12で、一時若返りしたように見えますが、これは翌年引退したアンドリュー・ジョーンズが内野手(ファースト)扱いになっているからであって、彼を外野手扱いすると綺麗な右肩上がりの折れ線になります。考えてみると直近の大会まで外野手もメンバーが固定化されてきています。ウラディミール・バレンティン以外だと、ロジャー・バーナディーナ、カリアン・サムズなどのメンバーが、まだ主要大会の主力として出場しています。投手に比べれば若手選手も出てきているのですが、年齢曲線の話をすると、一般的にwOBAのピークを迎えるのが26~27歳前後と言われていますので、30代後半に入る彼らの攻撃力にいつまでも依存する訳にも行かないと思います。投手と比べれば、外野手の方はキュラソーやアルバ出身のマイナーリーガーが増えつつありますので、若手選手の台頭を期待したい所ですが、果たしてA・ジョーンズやW・バレンティンクラスが1人台頭してくれるか?ハードルは高そうです。

 そうなると、どうしても豪華な内野陣の方に期待がかかります。まだ開催時期が明らかになっていませんが、次回WBC位までは彼らはまだアラサーです。しかし、流石にその次の第6回大会は年齢と共にパフォーマンスは低下している可能性が高いと思います。ここでは守備に着目してみていきます。

 過去の主要国際大会のオランダ代表の”DER”を見ていきます。”DER”は、「チーム全体の本塁打を除くグラウンド内に飛んだ打球をアウトにした割合」を表します。オランダ代表のDERは、大会平均DER値と比べて良い値をマークしています。このDERは、基本スタッツから割と簡単に計算できる守備指標で、緻密なデータ集計を必要とするセイバー系の守備指標”UZR”(Ultimate Zone Rating)とも相関関係があり、特に内野手のUZRと関係が強くでます。つまり、このことから、オランダ代表の”特に内野手の守備力”が失点抑止に貢献しているということが推察されます。

 2013年第3回WBC2017年第4回WBCのショートを守ったのは、MLBゴールデングラブ賞受賞4回のアンドレルトン・シモンズでした。当然、同大会でのオランダ代表のDERに、彼の守備力が大きく貢献したであろうことは想像に難くありません。プレミア12ではメジャーリーガー不在でしたが、2015年の第1回大会ではオランダ代表の守備は平均以上でシモンズら不在でも悪くはありませんでした。2019年の第2回大会は、会場が高地でボールが飛びやすいメキシコ・ハリスコでしたので、この大会だけ環境が他と異質で判断が難しい所ですが、WBCにしろプレミア12にしろオランダ代表の野手の守備パフォーマンスは全体的に良いレベルと言えます。

 しかし、シモンズ達も着実に年齢を重ねています。下の図は、今後WBCオランダ代表で主力となりそうな内野手のUZRの推移です。

 A・シモンズが圧倒的なUZRをマークしてきましたが、現在31歳のシモンズもいつかは守備の衰えが出てきます。一方で、これからのオランダ代表を担うオジー・アルビーズ(2B/アトランタブレーブス)はセカンドとして高い守備力を誇っていますので、オランダ代表の編成部隊からすると、シモンズに続くような守備力の高い遊撃手が出てきてアルビーズと二遊間を組み、オランダ代表の守備力は維持していきたい所だと思います。幸い、ショートに人材はそこそこいますので、内野守備は心配なさそうです。


ジャンセンみたいなパターンが増えない限り・・・

 彼らの守備力を活かすためにも、投手陣の人選には工夫が必要です。特に大切なのはグラウンドボールピッチャーであること。オランダ代表の守備力を活かした戦い方ができますし、オランダ代表は東京ドームのような本塁打が出易い球場で試合をする機会が多いので、チーム編成する上で投手のタイプには注意が必要です。(こう考えてみると、フライボールピッチャーであるリック・バンデンハーグは、オランダ代表のエースピッチャーでありながら、オランダ代表の守備力との相性があまり良くなかったとように思えます。WBC大会中もフライアウトの方が多く、3本HRを被弾しています。同じフライボールピッチャーでも、ケンリー・ジャンセン位抜きんでていないといけない、ということなのでしょうね。)しかし、直近の国際大会での若手投手の起用の少なさは、2023年開催と噂されている次回WBCでも非常に心配なポイントです。

 コロナウィルスの影響で開催が中止と発表する前の時点で、1次ラウンドの会場は、東京、台湾、アメリカのフェニックスとマイアミとアナウンスされていました。オランダ代表は次回も東京か台湾に割り振られた可能性が高かっただろうと思います。近年、韓国や台湾の攻撃陣は強力になっていますから、打撃戦になった時にオランダ投手陣にとっては相当脅威だと思います。オランダ代表が1次ラウンド敗退、それ以降しばらくWBCではベスト4からご無沙汰・・・、というシナリオも十分考えられると思います。

 捕手から投手にコンバートした結果、メジャーを代表するクローザーにまでなったケンリー・ジャンセン(CL/LAドジャース)は、マイナー時代に所属球団からのアドバイスで投手転向を決意しました。ただ、オランダ野球協会KNBSBとすれば、所属球団が投手コンバートを打診することを期待する訳にも行かないので、自国選手がマイナー契約を結ぶ前の時点で身体能力の高い選手が投手にも集まるよう、才能のある選手に意識的に投手コンバートを促すような施策を考えないといけないだろうと思います。


予告:次回WBCでピークを迎えそうな国

 課題を抱えるオランダ代表とは対照的に、次回2023年頃に戦力のピークを迎えそうな国があります。その国の代表チームメンバーが、オランダ代表が出場した国際大会と近い時期に選出されたメンバーの年齢を比較して見ていきます。(尚、年齢はオランダ代表が出ていた方の国際大会の開催日付に合わせています。)

 これがどこの国なのか、国際野球に詳しい方からすると簡単すぎかもしれませんね。この国が、アメリカ、ドミニカ共和国、ベネズエラ、プエルトリコといったメジャーリーガーを多く擁するWBCの強豪国から金星を挙げたり、うまく行けば大会ベスト4位まで進める可能性があると考えています。


《参考文献》

・蛭川皓平(2019)『セイバーメトリクス入門』水曜社

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