前回オランダ代表の年齢とチーム編成について分析しましたが、今回はコロンビア代表です。コロンビア代表は近年若手メジャーリーガーを多く輩出しており、野球において非常に勢いのある国です。
コロンビア代表チームのこれまでの国際大会での戦績を振り返ってみます。まず2013年第3回WBCの予選。4つの予選大会の中で最もレベルが高いと呼ばれた中南米予選に決勝まで進出したものの、残念ながら決勝戦でブラジルに負け予選敗退。雪辱を期した第4回WBCの予選では、WBC本戦出場経験のあるパナマやスペインといった実力国を破り全勝で本戦出場を決めました。この時ディルソン・ヘレーラ(2B/当時NYメッツ)などメジャーリーガーも参戦していましたが、チーム全体としては20代前半のマイナーリーガーが中心のチームでした。
続くWBC本戦。初戦は優勝候補アメリカを相手に延長10回にまで持ち込む接戦。残念ながらアメリカには敗れたものの、続く第2戦はWBC全大会出場しているカナダを破り同国にとって歴史的1勝をあげました。第3戦では前回王者ドミニカ共和国代表を相手に、これまた延長11回にまで持ち込む大接戦を演じました。結果的には1次ラウンド敗退と言う結果にはなりましたが、1次ラウンド敗退国の中でもっともインパクトを残したチームと言えるでしょう。その躍進の軸となったのは、ホゼ・キンターナ(SP/当時シカゴ・Wソックス)とフリオ・テヘラン(SP/当時アトランタブレーブス)というメジャーリーグでも先発ローテーションを担っていた2大エースでした。強豪相手でも通用する先発投手が1人だけでなく2人もいたことは、この時のコロンビア代表にとっては大きな武器でした。更にホルヘ・アルファロ(C/当時フィラデルフィアフィリーズ)を主軸に迎え、メジャー経験のあるドノバン・ソラーノ(2B/当時NYヤンキース)、エルネスト・フリエリ(RP/元LAエンジェルス)など、もメジャー経験者を多く集まったことに伴って、本戦メンバーは予選メンバーよりも2歳以上平均年齢が高くなりました。それでも平均年齢は27.2歳ですから、これから働き盛り、といった年齢構成だったと思います。
2019年には、東京オリンピックのアメリカ大陸予選への出場権がかかったパン・アメリカン競技大会と更にその予選大会がありました。そしてコロンビア代表は、無事オリンピックアメリカ大陸の予選への出場権を獲得することができました。ご存知の通り、コロナウィルスの影響で、アメリカ予選は開催直前で延期になってしまいましたが、この時のコロンビア代表チームは、メジャーリーガーの召集は当然出来ず、更にそれだけでなくマイナーリーガーもほとんど召集できませんでした。それでも、オリンピックやパン・アメリカン競技大会といった中米諸国で関心の高い大会が関係していることもあって、出来る限り多くの代表経験者を召集していましたが、一方で20歳前後の若手もちゃんと各ポジションに召集していて、チーム全体としてはWBCの時と平均年齢はあまり変わりませんでした。
コロンビア代表のポジション別 平均年齢
ポジション別の平均年齢を見てみましょう。パンアメリカン大会予選だけメンバー構成がかなり違う面子なので、WBCの予選2大会と本戦の計3大会に着目して見てみましょう。直近2017年の第3回、この時が投手陣の平均年齢が一番高くなっている(と言っても平均28歳)ことが分かります。キンターナとテヘランという2枚看板に加え、元横浜のギレルモ・モスコーソなどベテランを召集したチーム編成の結果が表れています。
投手/守備スタッツはオランダと似ているが…
前回オランダ編と同様、2017年の第3回WBCにおけるコロンビア代表のスタッツを、大会全体スタッツとの比較でみていきましょう。
K/9 コロンビア 6.07 全体 7.47
BB/9 コロンビア 3.34 全体 3.62
DER コロンビア .722 全体 .689
奪三振率は大会平均以下、与四球率は若干良いレベル、守備指標DERはかなり良い、というスタッツです。実はこれ同大会のオランダ代表に近い結果なのです。
K/9 コロンビア 6.07 オランダ 5.60
BB/9 コロンビア 3.34 オランダ 3.45
DER コロンビア .722 オランダ .701
投手平均年齢 コロンビア 25.7歳 オランダ 29.5歳
コロンビアの試合は3試合しかありませんでしたので、その内2試合に先発したキンターナとテヘランの2大エースの投球結果が全体にも影響しています。
キンターナ K/9 6.35 BB/9 1.59 DER .923
テヘラン K/9 5.40 BB/9 1.80 DER .846
決して奪三振率は高い訳でなく、でも四球は非常に少ない。DERは飛んだ打球をどれだけアウトにしたかを表す指標ですが、非常に高い値を示しています。これが打ち取った打球か打たれた打球かで言うと判断が難しい所ですが、試合のダイジェスト映像などを見る限り、結構打たれた打球も多かったように見えます。ティト・ポロ(CF/当時NYヤンキース1A+)がファインプレーを連発したシーンなどを見ても、外野手を中心にかなり守備も頑張った感じがします。つまり、結果的には同じ大会に出場したオランダ代表とスタッツこそ似ていますが、内容をもう少し掘り下げると2009年第2回WBCのオランダ代表の戦いぶりと同じで、守備が相当頑張ったおかげで強豪との接戦勝負を演じられた、と言ってよさそうです。ただ、ティト・ポロのようなファインプレーが毎回出るとは限りませんし、今のコロンビア人メジャーリーガーの中にオランダ代表で言うアンドレルトン・シモンズ(SS/LAエンジェルス)のような世界一の守備力を誇る選手がいる、という訳でもありまんから、将来のことを考えると野手の好守備に頼るような戦い方では、あまり長続きしないように思います。
まず目指すべきはプエルトリコ代表
では、コロンビア代表はどのような戦略を志向すべきなのか?色々考えた結果、結論から言うと『プエルトリコ代表が一番のモデルケース』と思えてきました。色々理由があるので、1つ1つ説明していきたいと思います。
まず、プエルトリコ代表がどのようなチームかを見ていきます。アメリカ、ドミニカ共和国、ベネズエラに続く強豪として取り上げられることの多い同国代表ですが、ほとんどのメンバーをメジャーリーガーで揃えられる国と違って、少し選手層の劣るプエルトリコ代表メンバーにはマイナーリーガーも結構含まれます。特に投手は野手と比べても選手層が薄いです。しかし、第3回、第4回WBCでは2大会続けて準優勝という結果を残しており、1次ラウンド敗退も1度も無く、WBCで特に安定した結果を残している国と言えます。では、選手層が劣るはずのプエルトリコ代表が、何故安定した結果を出しているのか?というと答えに窮するのが正直なところです。何故なら「普通に勝っている」から。勝っている試合では、戦力差を感じさせないくらい普通に打って守って勝っています。強いて言えば盗塁が多いことでしょう。犠打は多くありませんが、盗塁は毎大会その傾向が見られるので、チームの戦略として意識的にしているのだと思います。とは言え、これが勝敗の決定的な要因ということではないと思います。データではなく主観的な意見になってしまうのですが、プエルトリコ代表はチームとしての結束力が高いように思えます。第4回大会ではチームメイト全員が金髪に髪を染めて、チームが一丸となって大会に臨んでいるように見えました。チームの結束力の源は全員金髪を発案したヤディア・モリーナ(C/元セントルイスカーディナルス)でしょう。戦力的にも、盗塁抑止やフレーミング技術などキャッチャーとしての守備力は超一流ですし、選手層の薄い投手陣の力を引き上げたと思いますが、リーダーシップによるチームへの貢献も相当あったのだろうとおもいます。(次回WBCでは是非同国の代表監督として参戦して欲しいものです。)
話をコロンビア代表に戻しましょう。個人的には、将来的にプエルトリコ代表に近い選手層を構えることが出来るのではないかと考えています。コロンビア代表もどちらかというと野手にタレントが寄っています。やっぱり花形の内野手にタレントが集まり易い環境や歴史がありますので、投手の方の選手層が薄くなるのは致し方ないかなと思います。ただ、プエルトリコ代表と比べると野手の選手層はまだまだ薄いです。下記は当サイトで選出した次回WBCコロンビア代表予想メンバーです。
投手の選手層はプエルトリコ代表も薄いので、近いくらいのメンバーは揃えられているのではないかなと思います。ただ、野手は控えも含めてもう少しメジャークラスの選手が欲しい所です。
2023年開催と噂される第5回WBCでは、上記予想メンバーたちが年齢的にもキャリアのピークを迎えそうですので、コロンビア代表にとっては次回大会は躍進のチャンスだろうと思います。加えて、他のパナマなど中南米諸国と違ってコロンビア代表はカリブの強豪の仲間入りをするだろうと個人的に考えています。それは同国の人口や経済の規模があるからです。
ドミニカ共和国やベネズエラ、キューバのようにサッカーより野球の方が人気がある国の人口は、ドミニカ共和国が1,078万人、ベネズエラが2,852万人、キューバが1,134万人と、1千万人を超える人口規模です。コロンビアの人口は4,875万人ですので、それらの国を大きく上回る人口がいますが、コロンビア自体はサッカーがNo.1スポーツの国ですので、同国内で野球が盛んな地域であるバランキージャやカタルヘナの都市圏人口に絞ると293万人。ドミニカ共和国全体の1/3程度です。一方で、プエルトリコ全体の人口はというと367万人。プエルトリコは野球だけでなくバスケなど他のスポーツも盛んですので、バランキージャやカタルヘナと前提条件は近いものがありそうです。コロンビア第4の都市バランキージャや第5の都市カタルヘナだけで、プエルトリコと比肩する人口がいることは、大きなポテンシャルと言えます。
プエルトリコの場合、プエルトリコ系アメリカ人メンバーもWBCには参戦していますが、コロンビアも米国にいるコロンビア出身の移民が79万人いると言われていますから、彼らがコロンビア代表入りしてくれれば更に戦力はアップします。(因みに、コロンビアだ表のオスカー・メルカド(CF/クリーブランド・インディアンズ)は7歳の時にフロリダに移住したカタルヘナ出身のアメリカ移民です。)更に隣国ベネズエラにはコロンビア系ベネズエラ人も多くいますので、WBCでは彼らがコロンビア代表を選ぶこともあるでしょう。
ということで人口面で見た場合、コロンビアのポテンシャルは非常に高いと言えます。選手層が今以上に厚くなれば、チーム編成で苦労することも少なくなり、戦略・戦術面で前向きな選手選考ができるようになるでしょう。
ポイントはキャッチャーか?
あとは、カリブの強豪を倒すために必要な結束力のある代表チームが作れるかどうかが鍵となります。コロンビア代表の場合、有利なのはバランキージャやカタルヘナといった同郷の選手が多いことです。シーズンオフでは、コロンビア出身のメジャーリーガー同士で一緒にトレーニングすることがあるようですし、チームがまとまり易い環境は最初から揃っていそうです。プエルトリコ代表においてモリーナが担っていたリーダーシップは、コロンビア代表においてはそこまで心配の種ではなさそうです。
ただ、モリーナがプエルトリコ代表における戦力面での存在感は、手薄な投手陣に与えた影響も大きく、同じく投手陣の選手層が相対的に薄くなりそうなコロンビア代表においてもそういったキャッチャーの存在は重要になりそうです。コロンビアからもコンスタントにキャッチャーを輩出してはいますが、当然ながらまだモリーナクラスは出てこなさそうです。出来ればフレーミングに長けたキャッチャーが出てきて欲しい所でしょう。モリーナがWBCドミニカ戦で発揮した鬼フレーミング技術を見ると、国際大会でのフレーミングの重要性がよく分かります。強肩だけで言えばホルヘ・アルファロは十分ですが、盗塁阻止率はそこまでですし、フレーミングや他の技術がちょっとイマイチ。レイズのプロスペクト ロナルド・ヘルナンデス(C/タンパベイ・レイズ)の成長に期待といったところでしょうか。
コロンビアは外国人3番手になれるか?
サムネイルに記載したコメントは、コロンビア出身の名ショートのエドガー・レンテリア、その兄にありコロンビア野球リーグ会長でもあるエディソン・レンテリアのインタビュー記事の言葉です。国内のウィンターリーグLCBP(Liga Colombiana de Béisbol Profesional)は何度かの開催中止の期間を経て、現在のリーグは1993-94シーズン以後は継続しています。その前にあった中断期間がなければ、今頃はドミニカやベネズエラ、プエルトリコ、メキシコといった中南米の野球の強豪国に肩を並べる存在になっていただろう、という悔しさの籠ったメッセージです。確かに人口データなどからは、それを裏付けるだけのものはあるように思えますので、この国内リーグの空白期間がコロンビアにおける野球普及に与えたマイナスの影響は大きかったと思います。ただ、このインタビュー記事の中で、コロンビア人のメジャーリーガーが20~30人プレイするという野心的な目標を掲げているようです(これはドミニカ共和国、ベネズエラに続くメジャーにおける外国人選手3位)ので、モチベーションは高いようにみえます。更なる高みを目指すコロンビアは今後も要注目です。
~以上~
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