GBkwERAを使った日韓台プロ野球 投手ランキング

プロ野球、メジャーリーグ、高校野球、社会人野球・・・。野球には様々なカテゴリーがあり、それぞれに楽しみ所があるスポーツだと思います。その中で『国際野球』というジャンルはメジャーなカテゴリーとは言わないですが、”楽しみ方”という点では全てのジャンルに通じる見方が出来ると思います。プロの高い技術と攻防、超短期決戦によるドラマチックな展開、野球とベースボールの違い、などなど。私が世界の野球に興味を抱くきっかけは2009年の第2回WBCでした。メジャーリーガーがほとんどいないオランダ代表がメジャーリーガーだらけのドミニカ共和国を2度も破り、決勝戦ではメジャーリーガーで揃えたアメリカやベネズエラではなく、地元のプロ野球中心に編成された日本と韓国の決勝戦。それまでは、メジャーリーグとマイナーリーグの関係を説明する上でよく用いられるようなピラミッド構造をイメージしており、『アメリカ以外の野球もこのどこかの階層(レベル)に当てはまるのだろう』という画一的な見方をしていました。しかし、2009年のWBCを見たことで、代表チーム間の相性だとかレベルだけでは括りきれない要素もありそうだぞ、と思い始め、世界のどんな国でどんな野球が行われているのか、各国のリーグの特徴や選手などを調べ始め今に至ります。


元々、番狂わせやジャイアントキリングが好きな性格なものですから、それを起こすために考えたり工夫したりする余地を否定するような”レベル”(=3Aレベルとか2Aレベルとか...)という言葉がいまいち面白くなかったのだと思います。もちろん、現実には各国リーグの競技レベルの高い/低いは存在しますし、出場国の実力を説明する上でも非常に便利な言葉ではあります。ただ、この言葉を使いすぎると、”レベル”で比較をした時点でまるで勝敗が決したような極端な意見をする野球ファンの方もいるので、国際試合への盛り上げや楽しみを邪魔しないように使い過ぎないように、と思っていました。


一方で、私がセイバーメトリクスに興味を持ち始めたきっかけも、この”レベル”と言う言葉と関係があります。MLBやNPB以外のリーグでどんなに優秀な成績を収めている選手でも、『〇〇リーグの成績は意味がない』とか『〇〇では打てても日本では通用しない』とか、MLBやNPB以外を全て下に見るようなゼロイチな”目線”で判断されるのは、国際野球ファンとしては面白くない。実際事実その通りなことも沢山あるのですが、何か根拠に基づき理論的な説明がされていない(もしくは薄い)コメントが多いので、逆にその正否を検証するには自分自身がデータに基づく客観的な分析方法を勉強する必要が出てきた訳です。


そして、国際野球ファンでセイバーメトリクスを嗜む者にとっては、MLBやNPBのように豊富なデータが存在する同リーグと違い、得られるデータの種類の少なさがどうしても壁となり立ちはだかります。最近は日米以外のリーグでも得られるデータの種類が増えてきましたが、それでもBaseball Referenceにあるようなスタンダードなスタッツまでがせいぜいな所ですので、入手できる範囲のデータを何とかうまく工夫して、その選手のパフォーマンスを定量的に評価するしかありません。ただ、今回取り上げるGBkwERAによる投手評価ならば、オーソドックスなスタッツだけでも、定量的な見方を出来ると考えています。前置きが長くなりましたが、ここから具体的なテーマを説明していきます。


セイバー系の投手評価指標

投手成績の代表的な指標と言えば防御率(ERA)がありますが、防御率は野手の守備の影響を受けるので、野手がプレイに関与しない被本塁打・与四死球・奪三振の3つの項目で評価してしまおう、という発想から生まれたのが疑似防御率FIP(=Fielding Independent Pitching)です。そんな3項目だけで投手を評価していいの?と普通思われるでしょうが、FIPによって投手の失点の7割は説明がつくと言われています[1]。


出典:[2] 岡田祐輔 他「デルタ・ベースボール・:リポート1」(水曜社)より。ちょっと加筆。


ただ、FIPでは値を下げる変数は奪三振しかないので、三振を多く奪える本格派に有利になる傾向があり、例えば打たせて取るグラウンドボールピッチャーなどのFIPは過小評価されてしまいます。そこで、ゴロ・内野フライ・外野フライ・ライナーといったどんな打球を打たれたかも含めて評価した指標がtRA(=true Runs Average)です。このtRAならば、野手がエラーを犯したとしても、ゴロを打たせた時点で投手の評価は上がるようになっているので、評価が下がることはありません。このtRAは、投手の失点阻止力を評価するには現時点で最も正確なベ指標だと思うのですが、計算式はこんな感じでかなり複雑です。


tRA={(0.297×四球+0.327×死球-0.108×奪三振+1.401×被本塁打+0.036×ゴロ-0.124×内野フライ+0.132×外野フライ+0.289×ライナー)÷(奪三振+0.745×ゴロ+0.304×ライナー+0.994×内野フライ+0.675×外野フライ)×27}+定数


世界の野球好きにとって、このtRAを計算しようとすると2つの壁に直面します。

 ① ゴロやフライなどの打球データがそろわない。

 ② 各項目の係数ができない。

①の説明はそのまんまです。打球データなんて中々ないんです。②ですが、上記の計算式で各項目にかけられている0.297や0.327などの係数は厳密に言うと、リーグや年度によって値が変わるので計算しなければなりません。しかし、その係数の計算にはとても一個人では集計できるものではないため、個人で計算できる範囲でとなると、FIP辺りまでが落し所となります。


『年度相関』と『リーグ比較』

とは言え、FIPはFIPでかなり有用な投手成績指標です。FIPの良い所は、防御率よりも年度相関が高い、という点です。『年度相関』とは「ある年の成績と次の年の成績との間の相関関係」という意味です。年度相関において使用される”相関係数”はー1から+1までの範囲の数値になっていて、値が+1に近ければ近いほど「ある年の成績が良ければ、次の年の成績も良い」という関係が強い事を示します。防御率の年度相関が+0.3程度であるのに対し、FIPの年度相関は+0.5~0.6の間になることが多いです。これは即ち、翌年の防御率を予想するには過去の防御率を見るよりもFIPを見た方が予測が当たり易い、ということになります。

ところで、何故FIPの年度相関が高いかというと、FIPの算出に年度相関の高い変数が使われているからです。


(MLB 2002~2012年 年度間相関) 

奪三振率  0.803

与四球率  0.692

被本塁打率 0.390

出典:1.02 Essence of Baseball  [ https://1point02.jp/op/index.aspx ]


奪三振や与四死球率の良し悪しは、その選手の能力を表しているが故に再現性が高いと考えられています。なので、年度相関の高い奪三振,与四死球を使ったFIPも年度相関が高くなる、というのは当然と言えるでしょう。

また、年度相関が高いはずのこれらの値が、プレイするリーグが変わった後に大きく落ち込んでいたとしたら、移籍した先のリーグは前にプレイしていたリーグよりもレベルが高くなった、と見ることも出来るます。例えば、3Aでは高い奪三振率をマークしていた投手が、メジャー昇格後に奪三振率が低下していたとすると、それは対戦打者のレベルが上がり中々三振が奪えなくなったと解釈できます。本来は年度相関の高い指標をリーグが変わる前と後とで見比べることで、お互いのリーグのレベルや特徴を比較出来るだろうと考えた訳です。


被本塁打のバラつき

ただし、リーグ間の比較するのにFIPを使用しようとすると1つ課題が出てきます。前述の投手成績の年度相関値を見て分かる通り、奪三振や与四球に比べて被本塁打は+0.390とあまり高い値にはなっていません。つまり、同じリーグでプレイしていたとしても、前年に本塁打を打たれまくった投手が翌年も本塁打を打たれまくる、とは言い切れず、その傾向は必ずしも強くないということです。だとすれば、プレイするリーグが変われば尚更どうなるか分かりません。被本塁打は球場の大きさや形状にも左右されますし、バッテリーの間で完結する三振や四球とくらべると、どうしてもノイズの入る割合が大きくなります。

しかし、その年度相関の低い被本塁打はFIPにおいて一番影響度が大きい要素となっています。


 FIP=(13×被本塁打+3×(敬遠を除く与四死球)-2×奪三振)÷投球回+定数

※定数=リーグ全体の{失点率-(13×被本塁打+3×(敬遠を除く与四死球)-2×奪三振)÷投球回}


この通り、被本塁打1本につき13ポイント分FIPが悪化してしまいます。そこで、この被本塁打の不安定な部分を修正するために作られたのがxFIP(=Expected Fielding Independent Pitching)です。このxFIPは、打たれたフライに対して平均的な(被本塁打/フライ数)の係数をかけて、被本塁打に含まれるノイズな部分を補正しています。しかし、xFIPを計算するにはフライボールの数という打球データが必要になるので、そのデータが入手できない野球リーグではxFIPも中々計算が難しい指標となっています。

逆に、被本塁打を全く使わないkwERAという指標もあります。


 kwERA = 定数-12×{(奪三振-与四球)÷打席}

※定数=リーグ全体の防御率+12×{(リーグ奪三振-リーグ与四球)÷リーグ打席}


kwERAの良い所は、数式がシンプルで算出がし易い割に成績予測には非常に有用な指標である点です。しかし、国際試合を分析する立場であるために、FIPやkwERAでは困ることもあります。投手力の高い侍ジャパン投手陣は、三振を恐れず積極的に振ってくる対戦国の打線との相性も相まって、日本代表のFIPは毎回大会トップクラスの値をマークしてしまいます。一方で、他の国の投手陣はツーシームやシンカーなどゴロ系の打たせて捕る投手が多かったりするので、リーグ全体としての奪三振も少なめとなり余計に侍ジャパン投手陣の突出したFIPが目立つ結果となります。しかし、第4回WBC準決勝アメリカ戦の例に挙げますと、菅野ら侍ジャパン投手が1与四球12奪三振という結果だったのに対し、アメリカ代表投手陣は3与四球6奪三振という結果でした。FIPやkwERAで見れば圧倒しているにも関わらず、試合は1対2で敗れています。たった1試合の結果に過ぎませんが象徴的な試合だったように思います。また、「FIPが良いのだから失点は野手(守備)の責任じゃないか」というのも違和感があります。

ということで、国際大会を分析するのであれば FIPやkwERAによる投手評価ではやや片手落ちな感があり、何とか打球データを揃えて評価できないかが課題でした。


救世主 GBkwERA現る!

そこにGBkwERAという解決策があることに気づきました。(kwERA: The Starting Point for Pitcher Evaluations (Jeff Zimmerman) 2015年11月30日)まずはこのGBkwERAをざっくり説明しましょう。実際の防御率(ERA)とkwERAの間には乖離があって、ゴロ打球の割合(GB%)が増えれば増えるほど、実防御率はkwERAよりも良くなる傾向があるのですが、特にゴロが極端に多い投手や逆にゴロが極端に少ない投手にその傾向が顕著になります。そこで、kwERAに対してGB%を含めた多項式を使って補正した指標がGBkwERAです。


 GBkwERA = kwERA*(-3.518 * GB%^2+2.344*GB%+.629)


なるほどこれは良いと思い調べた所、ゴロ率の年度相関は+0.8前後。奪三振以上に傾向がはっきりしたスタッツだということも分かりました。ゴロは長打にもなり難いので、GB%を投手評価で神しない訳には行かんだろう、と思い立ちました。


GO/AOからのGB%への変換

問題は打球データであるGB%のスタッツをどう集めるか?です。GB%が載っているサイトはFanpraphsやDeltaなど一部のサイトに限られてしまっています。そこでゴロアウト/フライアウト比率(GO/AO)に着目。GO/AOならば、各リーグの公式サイトでも乗っているサイトを見かけるので、調べてみた所ほとんどのサイトでデータが載っていました。

KBO(韓国)

CPBL(台湾)

SNB(キューバ)

LMB(メキシコ)

Hoofdklasse(オランダ)

WBSC公式サイト

今回は手始めに、KBO,CPBLのアジアのプロ野球リーグにフォーカスしてみたいと思います。


さらに、GO/AOからGB%に変換する数式がFanpraphsにあったことを思い出しました(Converting GO/AO to GB%)。


 推定GB%=0.1813 ln(GO/AO) +0.3826


こちらはMLBからのデータなので係数部分はリーグによって変わると思いますが、それを検証するにはGB%とGO/AOのデータ両方が揃っていないといけないのですが、そんなリーグは中々無いので諦めまして、とりあえずこの数式を使ってGO/AOをGB%に変換することにします。(注1)


KBO,CPBL成績を使ってNPBでのGBkwERAを予想する

ここでようやく最初の話に戻ります。韓国KBOや台湾CPBLでタイトルを獲った投手がNPBに移籍してくるケースがあります。逆に、NPBで通用しなくなった選手がKBOやCPBLに移籍して復活を遂げるケースもあります。両リーグでプレイした彼らのNPB時代とKBO/CPBL時代のスタッツを比較すると、奪三振率K/9や与四球BB/9辺りはNPBになると悪化する例が多いです。ではどのくらい悪化するのか、増減比の平均を集計した結果が下の表です。(尚、対象にした投手は、他のリーグへの移籍を挟まずKBO⇔NPB間で直接移籍した投手。また、比較に使う成績の範囲は、移籍前後の最大3年までの成績をシーズン毎の投球回数で重み付けした平均を採りました。)

まずは韓国KBOとNPBとの比較です。KBOでの成績に対してNPBでの成績は、奪三振率K/9は10%低く(=悪化)なり、与四球率BB/9は+33%,被本塁打率HR/9は+23%増加(=悪化)している、という結果でした。一方、NPBになるとゴロ率GB%が+20%も増えていますが、リーグが変わったとしてもここまでゴロ率が大幅に増えることは考え難いので、恐らくKBOのGO/AO値(ゴロ/フライアウト比率)から推定GB%に変換した際の精度や誤差によるものと思います。

次に、先述の年度相関と比較すると、リーグを移籍した場合の相関係数は低くなっており、同じリーグの場合と比べて環境や対戦相手が変わることでの再現性の難しさを表しています。その中でも特に相関係数の低下が著しいのが与四球率BB/9で、0.2ポイント以上も下がっています。一方、K/9とGB%は年度相関より低いとは言え、それなりの相関係数を維持しています。つまり、KBOでの投手成績をチェックした時に、奪三振やGB%はまだ予想がし易いけれども、与四球はいくら韓国での成績が良かったとしても日本でどうなるかは分からない、ということです。

ただ、分からないとは言っても、それが今回の企画なので予想はしなければなりません。そこで、相関係数の高い/低いに関わらず、直線近似で推定することにしました。他にも、KBOの成績に対して単純に平均増減比を乗じるやり方も考えましたが、KBOの成績がキャリアピークではないかと思うくらい良すぎる場合、NPBでの成績になった場合の悪化率も高くなる傾向も見受けられるので、直線近似で推定する方がまだベターだろう、と判断した訳です。

ここ最近ではアンヘル・サンチェス(SP/SK→読売)、ラウル・アルカンタラ(SP/斗山→阪神)など、韓国での活躍が評価されての移籍が続きましたが、今シーズンもアンドリュー・スアレス(SP/LG→東京ヤクルト)、ボー・タカハシ(SP/KIA→埼玉西武)が日本でプレイします。折角なので、このメソッドを使って成績予想をしてみました。因みに、予想防御率にはGBkwERAをそのまま使いました。

ボー・タカハシの方は、韓国での防御率が4.91とあまり期待できそうにない成績ですが、高い奪三振とそこそこの与四球率によって、GBkwERA 3.02と予想。ただし、ゴロの少ない投手で、且つ本拠地が本塁打の出やすいベルーナドーム(旧:メットライフドーム)になるので、フライを打たれ過ぎると球場の餌食になるリスクあり。尚、年俸が2000万円なので予想成績をマークしてもらえれば御の字でしょう。

アンドリュー・スアレスも、期待されるGBkwERAは3.17。圧倒的な数値ではないですが、先発投手として、この防御率でイニング数を稼いでもらえれば、補強としては全然合格点と言えるでしょう。ただ、スアレスも狭い神宮球場を本拠地とするため、被本塁打の多さによって評価が分かれることになるでしょう。


次に台湾CPBLとNPBのスタッツの比較です。KBOと違ってCPBLで活躍した投手がNPBに移籍する例は多くありません。日本でテストを経て入団するケースも見受けられます。むしろ、そういったステップアップの移籍よりも、NPBで成績を残せなかった選手がCPBLで再起を図ろうとする例の方が断然多いのが現実です。その結果、サンプル数はKBOの12投手に対してCPBLでは10投手と微減ですが、対象投手の両リーグでの投球回数はかなり差があり、後者はNPBでの投球回数は非常に少ない例が多くなってしまっています。下記表は、対象10投手の移籍前後のスタッツ増減比の平均を集計したものですが、NPBでの投球回数の少なさを考えると、このデータをそのまま使用して良いものか疑問が残ります。

そこで少し胡散臭い方法にはなりますが、CPBLからKBOにステップアップする投手は結構いますので、先述のKBOでの成績をNPB成績に換算する方法を使って、CPBL時のスタッツとKBOのスタッツから推定したNPBスタッツを比較して集計した増減比も、サンプルデータとして採用してみることにしました。結果がこちらです。

サンプル数は一気に増えて27投手となりました。奪三振K/9やゴロ率GB%の増減比は、KBO⇔NPBの増減比並みの変化となりましたが、与四球BB/9や被本塁打HR/9はかなり悪化する、という集計結果になりました。ここがKBOとCPBLの差でしょうか。また、相関係数が低いことで近似直線の傾きは低く切片が大きくなり、CPBL所属投手には不利なNPB予想成績とならざるを得なくなりました。ただ、これが過去事例から計算した結果なのでありのまま変換式を採用したいと思います。


日韓台プロ野球 投手ランキング by GBkwERA

という訳で、韓台両リーグの投手成績からNPBでの推定スタッツを計算する方法が出来上がりましたので、日韓台各リーグの投手をランキング化していきたいと思います。今回作成するランキングは、2019~2021年までの各3シーズンのNPB版GBkwERAから、RSAA(=Runs Saved Above Average) と言われる『その投手が平均的な投手に比べてどの程度失点を防いだか』を示す指標を計算します。RSAAは通常失点率を使って計算するのですが、今回は代わりにGBkwERAを使って計算します。(注2)


 RSAA=(リーグ平均失点率 -失点率)×投球回数÷9

  ⇩

 RSAA(G)=(リーグ平均防御率 -GBkwERA)×投球回数÷9


尚、各シーズンのRSAA結果に対して、より直近のシーズンの成績の方により比重を置きたいため、2021年シーズンは100%/2020年は75%/2019年は50%、と重み付けをして評価することにしました。

 それでは上位20名を見ていきましょう。

見ての通り、上位はNPB所属選手で占められることになりました。中でも群を抜いているのが山本由伸投手(SP/オリックス)で、特に2021年シーズンは投手5冠など圧倒的な成績をマークしました。そんな山本と遜色ないGBkwERAをマークしているのが、4位の髙橋遥人投手(SP/阪神)。ここ3年各スタッツは安定していますので、投球回さえ稼げればもっと評価される投手になると思います。

では、KBO/CPBL所属選手は何位くらいから登場するのでしょう?答えはこちら。

昨シーズンKBOで最優秀防御率、最多奪三振、シーズンMVPと多くのタイトルを獲得した元ソフトバンクのアリエル・ミランダ(SP/斗山)が36位にランクインしました。しかし、2021年シーズン単年でのランキングにすればなんと全体4位!NPB変換したスタッツで4位ですから、以下にKBOでの活躍が群を抜いていたかが良く分かります。来季も斗山ベアーズでプレイしますが、NPBに復帰した姿も見てみたかった所です。

ミランダに続くのは、元BCL石川所属のホセ・デポーラ(SP/中信)が45位。こちらもミランダと同様、CPBLで最優秀防御率、最多奪三振の2タイトルを獲得(しかも2年連続)し、CPBLでは他を圧倒する成績をマークしました。

アジア人選手では、46位に具昌模(ク・チャンモ)(SP/NC)が入りました。2021年は故障で1軍登板がありませんでしたが、2年だけこの成績は見事と言えるでしょう。個人的に前々から注目していた投手ですが、是非日本で投げる姿を見てみたいものです。今季の年俸が1億8000万ウォン(=1800万円)ですが、本当に先発でこの投球回数/防御率を出してくれるならば、3倍近く出しても全然いいと思います。

50位以降ではKBO所属の外国人投手が多く登場しますが、東京オリンピック韓国代表からもランクインしており、日本戦でベースを踏み外し韓国国内で叩かれまくった高祐錫(コ・ウソク)(RP/LG)が53位、対照的に国際大会で重用されまくっている曺尚佑(チョ・サンウ)(RP/キウム)が98位に入りました。


注目したい投手(CPBL)

ランキングを上位から順に見ても面白くないので、ここからは個人的に注目しておきたい投手のGBkwERAやRSSAなどのNPB予想スタッツを見ていきたいと思います。

CPBLの1人目は徐若熙(シュー・ルオシー) (SP/味全ドラゴンズ)。”徐若熙に注目”という言葉は、ベタと言うレベルを通り越し、『日本人投手で注目なのは山本由伸だよ』と言っている位恥ずかしい気持ちですが、逆に注目しないってのもおかしい話なのでピックアップしました。昨年は最速157kmの速球と前田健太バリのスプリットチェンジが武器。(むしろマエケンよりも落差があるようにすら見える…。)残念ながら中止となってしまいましたが、侍ジャパンとの強化試合でも来日を望む声が非常に多かった投手です。NPB成績補正がかかるとかなり不利になるはずのCPBLスタッツでも、まだプロ2年目にしてGBkwERA 3.49と立派な予想成績となっています。彼がポスティングにでもかけられたら、日米の争奪戦は必至でしょう。今後はコマンド能力の向上が鍵となりそうです。


曾峻岳(ツェン・ジュンユエ)は昨シーズンのCPBL新人王。どうしても存在感のある徐若熙の方が目立ってしまっている印象ですが、スタッツ的には全く遜色ない結果でした。しかも徐若熙の1歳年下の20歳。2020年のドラフトでは7位という下位指名ながらも、2021年のRSAA(G)+0.69ポイントは、デ・ポーラ(SP/中信)、スタンキビッチ(SP/統一)に続く3位で台湾人投手No.1でした。日本人投手っぽい深く沈み込む投球フォームですが、肩や肘への負担が大きいと呼ばれるインバートW(肘から吊り上げるようにして腕を上げていく投球フォーム)なので、故障のリスクが少し心配。


注目したい投手(KBO)

CPBLで徐若熙を取り上げるならば、KBOでは安右進(アン・ウジン)を取り上げないといけないでしょう。現在22歳。FangraphsでもKBOのプロスペクトの中でNo.1の評価を受けています。ただ、高校時代の暴行事件など素行に問題があるので、真面目さを重視するNPBの球団からは敬遠されるように思います。奪三振率は非常に高いので、与四球率やコマンド能力の改善が、今後の活躍のカギを握ることになりそうです。


金晉旭(キム・ジンウク)は、昨年のKBO新人王である李義理(SP/KIA)と共に東京五輪代表にも選ばれましたが、プロ1年目の投手を選出しなければならない程、左腕不足に悩む韓国代表の苦しい台所を揶揄されました。新人王の李義理の方は、メジャーリーガーの金廣鉉(SP/FA)と似た投法で日本のメディアでも多く取り上げられましたが、将来性では金晉旭の方が期待できそうで、FangraphsのInternational PlayersのProspect Rankingでは安右進に続く韓国人投手2番手にランク入りしています。東京オリンピックでは4試合に登板して自責点ゼロ。日本戦でも坂本選手と対戦しフライに打ち取っています。速球の割合が多いですが、評価が高いのはカーブ。今後はもう少しストレートの割合を少なくしていくのも手かと思います。


最後の注目投手は李政容(イ・ジョンヨン)。LGツインズ所属の25歳で年々成績が向上しており、今季はLG中継ぎ陣最多の69 2/3回を投げ防御率2.97。2021年シーズンは2020年と比べてカーブの割合を大幅に増加させています。2020年がチェンジアップやスプリットも投げていたのに対し、2021年はストレート/スライダー/カーブの三球種を中心とし、更にその3球種の球速差が適度の割合になったことで、躍進することができたようです。個人的にはこういった選手がお気に入りなため、今後の活躍を期待したいと思います。


まとめ

今回GBkwERAという指標を使って、日韓台のプロ野球投手を横並びに評価してみました。結果的に、世間一般でイメージされている日本>韓国>台湾のような印象を与えるステレオタイプのランキングが出来上がってしまった感じですが、逆にこういった”レベル”という先入観をぶち壊す投手が、日本以外から出てきてくれることを期待したいと思います。

また、手法的な課題としては、NPBの予想成績を近似線で算出しようとすると、どうしても突出した予想結果が出難く、どの選手だろうが似たり寄ったりの”安牌な予想結果”になり気味なので、もう少し工夫の余地がないか引き続き考えていきたいと思います。



(注1)・・・因みにGO/AO➡GB%変換をやってみた後、FanpraphsのサイトにGB%が載っていることに気づき「しまった…。」と絶望。ただ、FanpraphsのKBOスタッツは、個人のページにはGB%は載っているものの、Leaders BoardにBatted Ballのタブが無っていないので簡単にデータを取得することができませんでした。さらによくよくそのGB%を見てみると、NPBやMLBのGB%と比べてかなり高い値となっていて、正直いって「このGB%データ本当かいな?」と思う所もチラホラ。まぁ、KBO⇒NPBの成績に変換するときに、過去両リーグでプレイした投手のGB%増減比の平均を使っているので、仮にKBO時代の推定GB%が正しくなかったとしても、増減比をかけて算出したNPBでの予想GB%はそんなにヘンテコな値にはならないのではないかな、とざ~っくり考えています。

(注2)・・・後で気づいたのですが、『RSAA』が失点率を使うのに対して、防御率を使用した指標は『Pitching Run』と呼ばれているので、GBkwERAは防御率ベースであることを考えると、本当はPitching Run(G)とするべきでした。が、資料を直すのが面倒臭いのでこのままにしたいと思います。


参考文献

[1] 森本崚太(2021) 「野球データ革命」竹書房

[2] 岡田祐輔 他「デルタ・ベースボール・:リポート1」水曜社


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