WBC'23予選データ考察=パナマシティ編=

前回に続いてWBC'23予選データ考察=パナマシティ編=です。こちらも今さら感が半端ない話題となってしまいましたが、個人的にはずっと気になるテーマがありました。ずばり、『ニュージーランドやパキスタンはWBC予選に出るレベルにあるのか?』です。WBC予選が始まって以来、野球が盛んなパナマやニカラグアと言った中米の中堅国が、ようやくWBC本戦出場権を獲得できたことは、国際野球のファンからすると悲願成就の感があるのではないかと思いますが、しかし一方で野球新興国であるパキスタン、ニュージーランドといった代表国のプレイを見ると、本戦出場を決めたパナマやニカラグアとはだいぶ実力差を感じる大会になったのではないでしょうか?今回はあえてWBC本戦出場国ではなく、予選敗退に終わったこれらの国に注目して分析していきたいと思います。


得点/失点数からパナマシティ予選出場国をマッピング

前回のレーゲンスブルグ予選の分析と同じ、各対戦の得点と失点数からざっくり攻撃力と守備力を布置していこうと思います。結果は下のグラフの通り。

グラフの見方は、右上に行けば行く程 攻撃力/守備力共に優れているということになります。パナマ代表がぶっちぎりの1位。続いてニカラグアとブラジルが2位争いをしていて、3番手にアルゼンチン。これら上位4カ国と比べると、ニュージーランドとパキスタンは守備力でだいぶ劣るという結果になりました。パナマは横綱相撲でしたし、ニカラグアとブラジルは1勝1敗のロースコア、アルゼンチンも敗者復活準決勝でニカラグアと接戦を演じたことを考えると、この構図は感覚的にも合致したグラフになったのではないでしょうか?


続いて、これも前回同様で、wRAAとRSAA(FIP)をつかったグラフを見ていきましょう。


(指標の説明)

wRAA=リーグの平均的な打者(or チーム)が打つ場合に比べてどれだけ得点を増やしたかを表す攻撃の指標。

RSAA(FIP)=FIP(=Fielding Independent Pitching:与四球・奪三振・被本塁打という守備の関与しない3項目から算出する疑似失点率)をベースに、RSAA(=その投手が登板時に平均的な投手に比べてどの程度失点を防いでいるか)を計算した投手の指標。


最初のグラフと比べると、ニカラグアと互角だったブラジル代表がかなり左下にまで移動してしまっています。RSAA(FIP)が下がった理由は、ブラジル投手陣が本塁打を一番打たれたためです。実はパナマシティ予選は本塁打の少ない予選大会でした。パナマシティ予選での本塁打は全部で9本。その中で、約半分の4本がブラジル投手陣が打たれています。FIPは被本塁打の影響を大きく受けるので、ブラジル投手陣のRSAA(FIP)評価が悪くなっているのです。このグラフに、守備指標DERを使って補正するとこんな感じになります。

(指標の説明)

DER=(Defensive Efficiency Ratio:チーム全体のHRを除いたグラウンド内に飛んだ打球をアウトにした割合。チームの守備力を測る指標。)


ブラジル代表の守備力がニカラグアと肩を並べるくらいまで上昇しました。ブラジル代表のDERを得点化すると+4.4ポイント。つまり、野手の守備によって4.4点分の失点を防いだことを意味します。確かに、ブラジル代表の二遊間は日本でプレイするルーカス・ホジョヴィットル伊藤の守備が光ました。


しかし、ブラジル代表のwRAAは低いままです。実際ブラジル代表打線は、あまり得点できていないんですね。上位国との対戦が多かったのはあるのですが、打率 .211は大会参加国でワースト。4番サードのレオナルド・レジナットが打率.643/OPS 1.651と完全に確変モードに入っていたので、2番のビットル伊藤の出塁がもう少し多かったら得点も増えたかもしれませんが、そもそもレジナット以降の打順が悪過ぎたので、これでは得点はできませんね。


死球、暴投の多さから予選出場国を考える

さて、ブラジルの話題になってしまったので、話をニュージーランドやパキスタンに戻します。大会を早期に敗退した両国の試合ぶりを見ていて、パナマやニカラグアとの大きな実力差と感じたのですが、そう感じた理由の1つに『死球や暴投の多さ』があります。実際に試合を見ていて、本当に死球や暴投が多かった。四球やエラーもありましたが、印象としては大きくストライクゾーンを外れた投球の方が目立ちます。死球や暴投は、打者(選球眼)との勝負というよりも、”自滅”感が強く表れるので余計に印象が良くない。


まず、各国リーグの(死球+暴投)率を調べてみました。

NPB、MLB、韓国KBO、台湾CPBLなど、プロの選手がプレイするリーグでは1試合あたりに死球や暴投が1個あるかどうか、というのが目安となります。マイナーリーグでは3Aクラスだと先述のリーグと同じレベルですが、クラスが3A→2A→1Aと低くなっていくと、死球と暴投の比率が増えていきます。若い選手が多い1Aクラス辺りでは、制球力がまだまだ備わっていない投手が多いために、1試合辺り2個近い死球や暴投をマークしてしまう、ということですね。


同じようにパナマシティ予選の参加国を見てみます。上位3チ―ムでもマイナー1Aクラス並みに死球と暴投が多い国もありますが、下位3チームに至っては1試合に2個どころか4~5個近い死球と暴投を記録しています。これは異常な多さです。(因みに、同じく”ミスからの失点”という意味で各国のエラーの数も調べてみたのですが、死球・暴投数と比べるとはっきりした傾向はみられませんでした。)

同じくレーゲンスブルグ予選の死球・暴投率を見てみると、上位国でも1Aクラス並みに多いもののこれはギリ許容範囲として、最下位フランスで1試合で5.63個とこれまた異常な多さです。フランス代表は2試合ですぐ予選敗退となったのですが、その2試合で暴投6個、死球4個ですから、ちょっと多過ぎですね。


WBC予選の出場条件を明確したらどうか?

日本人的な目線になってしまっているのだろうとは思いますが、普段視聴している日本のプロ野球と比べて、十倍近い頻度で発生する暴投や死球を見てしまうと、『こういった技術レベルの国がWBCの予選に出てくるの?』と、どうしてもそういう感想を抱いてしまいます。しかし、サッカーなど他のスポーツにおいても、W杯などの世界大会の予選にはアマチュアレベルのチームが参加しているケースは普通と言うか、広く門戸が開かれているが故に様々なレベルのチームが参加しているのであって、寧ろその方が一般的でしょう。なので、そもそもが『予選に出るレベルかどうか』はテーマとして間違っています。間違っているとは理解しつつも、そういう感想を持ってしまうのは、WBCが予選でも招待制を採用しているという点が根っこの所にあるからかもしれません。要するに『この国がWBC予選に出られているのに、こっちの国が出られていないのはおかしくない?』という類の話ですね。


これがWBC予選への出場選考を兼ねた大会があれば、話は全く違ってくるのだと思います。ちゃんと規定された国際試合や大会で結果を残せば、技術レベルがどうであろうと結果が全て。文句を言われる謂れはありません。例えば1つの提案として、各地域の野球連盟が主催する大会(欧州野球選手権、アジア野球選手権、南米選手権、等々)が、WBC予選への出場選考を兼ねているという仕組みにする、とか。ちょうど'19年の第2回プレミア12が、東京オリンピックの出場権争いを兼ねていたような具合です。WBCを運営するWBCIからすれば、予算もあるでしょうから無制限に予選を開催する訳に行かないでしょうし、そこで各野球連盟にアウトソースするような形で地域別大会に出場選考会を兼ねる形にすれば、その大会の優勝争い以外の試合にも大事な意味が帯びてきますし、お互いWIN-WINの関係になるのではないか、と思います。特に最近は中米の野球がマイナーな地域(ホンジュラス、エルサルバドルなど)の露出が増えてきていますし、そんな大会があればもっと盛り上がるのではないかと思います。


おまけ:ホンジュラス代表の現在地

今回ニカラグア代表がWBC予選に入る前、ホンジュラス代表とベネズエラ国内リーグ代表チームと強化試合を行いました。その試合結果を、最初の得点/失点数から作るマッピンググラフに組み込んでみました。結果はこんな感じです。

ホンジュラス代表は、強化試合2試合ともコールド負けしちゃっているので、この結果は妥当な所なのだと思います。因みに、そのホンジュラス代表の死球&暴投率は5.68...。ただ、マウリシオ・デュボン(SS/ヒューストン・アストロズ)を輩出した同国ですから、これから向上していくのを見続けていきたいと思います。


=以上=






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