赤い稲妻はいつ還ってくるのか?

2018年12月19日、MLBとMLB選手会、キューバ野球連盟(以下、FCB)の三者が亡命無しにメジャーリーグ各球団と契約できる歴史的な制度に合意しました。これまでキューバの野球選手たちがメジャーリーグでプレイするには、命の危険を冒してまでアメリカに亡命するしか手段がありませんでした。キューバ代表チームの選手も例外ではなく、将来キューバの中核を担うだったはずの選手も、今ではメジャーリーグやマイナーリーグなどでプレイしています。

※当サイトでの調査結果です。


上のグラフは、各WBC大会後に参加したキューバ代表選手の大会後のキャリアを表したものです。第2回や第3回 WBCに参加したキューバ代表チームからは多くのメジャーリーガーが輩出されています。ヨエニス・セスペデス(OF/NY・メッツ)、ホセ・アブレイユ(1B/シカゴ・ホワイトソックス)、ギジェルモ・エレディア(OF/シアトル・マリナーズ)、アロルディス・チャップマン(RP/NY・ヤンキース)など、この頃の才能はアメリカに流出してしまったと言えます。その結果、第4回WBC2次ラウンドでキューバ代表は1勝も出来ず、更にオランダ代表にはコールド負け(14対1)を喫してしまいました。

このようにキューバ代表が相次ぐ亡命によって弱体化してきたのですが、昨年12月の合意によって、亡命したキューバ人メジャーリーガーが祖国に戻り、そしてキューバ代表チームに召集されることで、“キューバ代表ドリームチーム”が結成されることを期待する声も上がっています。


立ちはだかるトランプ政権

しかし、2019年4月8日、トランプ政権がこのMLBとFCBが締結した合意を却下したのです。この合意はキューバの野球界にとって長年苦しまされていた深刻な問題を解決する大きな改革だっただけに、トランプ政権によって許可が下りなかったことはキューバ球界に大きな失望を与えました。そもそもMLBとFCBが結んだ合意の背景には、オバマ大統領時代の「FCBがキューバ政府の一部ではない」との解釈のもと、FCBに契約金の一部が譲渡金として渡されることになっています。詳細は以下の通りです。

① 年齢が25歳以上且つキューバ国内リーグ“セリエ”で6年以上の経験がある選手(=日本で言うFA権取得のような場合)は15~20%をFCBが取得。

② 18~25歳未満の選手でもFCBが許可した場合(=ポスティングシステムのような場合)は25%をFCBが取得できます。(今年4月4日に公表されたキューバ人選手の移籍可能リストには、34名の選手が記載されており、その中にはイバン・モイネロ(RP/福岡ソフトバンク)、ライデル・マルティネス(RP/中日)など現役プロ野球選手も含まれています。)


就任以来、保護主義的な政策を推し進めるトランプ大統領はアメリカへの移民に対し厳しい態度を取っており、今回の合意却下も中南米諸国への批判的な姿勢がそのまま表れた形となります。トランプ大統領の任期は2021年1月まであり、彼が任期途中で自ら大統領職を辞することはまず無いでしょうから、それまでこの合意が認められる可能性は低いと考えられます。次回World Baseball Classic(=WBC)は2021年3月開催の予定ですから、大統領選2か月後に事態が進展することは考え難く、次回WBCでのドリームチーム結成の見通しは厳しいものとなりました。


キューバリーグに初めて復帰したメジャーリーガー

一方で、キューバの野球連盟もただ事態を黙って見ていた訳ではありません。2013年にキューバ代表選手のミチェル・エンリケスのメキシカンリーグ(LMB)派遣を皮切りに、キューバ国内選手の国外リーグ派遣が積極的に推進されてきました。そして、2014年にはフレデリック・セペダ(元読売)など、日本プロ野球球団との契約も始まりました。派遣先は日本、メキシコ、カナダ、イタリア、コロンビア、パナマなど、アメリカ以外の球団が中心となっています。このキューバ国内選手の海外派遣によって、これまで閉ざされたキューバ球界に、国外での経験や情報を持ち返ることに繋げています。留まることを知らない亡命によってキューバ代表の戦力低下が続く中で、FCBは“育成”により力を入れることで、何とか国際大会での競争力を維持しようとしている訳です。


そして、今年さらに大きな出来事がありました。2003年にキューバをボートで抜け出しアメリカに亡命したユニエスキー・ベタンコート選手が、今年3月に国内リーグ“セリエ”のナランハス・デ・ビジャ・クララに復帰したのです。Y・ベタンコートは、メジャーで9年間(出場1,156試合)に渡って活躍した正真正銘のメジャーリーグ経験者です。2014年にはプロ野球オリックスに入団。1年で解雇となりますが、その後は元々の亡命先だったメキシカンリーグで3シーズンプレイしています。メジャーの一線級でプレイしていた選手が、その経験をキューバ国内の選手達に伝承していく。これまでのキューバ選手の国外派遣では得られ難かったメジャー経験者本人による情報やスキルが、キューバ国内にもたらされることが可能になりました。


亡命した選手の代表復帰の可能性

今後も、メジャー経験のあるキューバ選手の国内復帰の流れは増加していくと思われますが、更にその先には、国内復帰した選手が代表チームに復帰することも考えられます。そうなると、日本やメキシコなどアメリカ以外でプレイしている一度亡命した選手が、キューバ代表に加わることもあり得るかもしれません。例えばプロ野球の場合、‘17年本塁打王のアレックス・ゲレーロ(読売)、’18年首位打者のダヤン・ビシエド(中日)、’18年13勝9敗のオネルキ・ガルシア(阪神)、‘18年6勝1敗のアリエル・ミランダ(福岡ソフトバンク)といった、プロ野球でも活躍している選手が、今のキューバ代表チームに加わることになります。(この4人で予想年俸総額が約10億円です・・・。)

これまでのキューバ代表の打線は、国外派遣を通してプロ野球でプレイしているアルフレッド・デスパイネ(福岡ソフトバンク)が主軸でしたが、これにビシエドやゲレーロが加わる訳ですから、十分強力な打線が形成されることになります。予想スタメンはこんな感じ(下表)でしょうか?

元々課題だった投手陣も、アメリカ以外の亡命組が加われば大きくテコ入れに繋がると思います。これがいつ実現するか分かりませんが、2020年の東京オリンピックにしても2021年のWBCにしても、ドリームチームの一つ手前のキューバ代表チームは現役メジャーリーガーはおらずとも対戦国にとって相当な脅威です。今後のキューバ野球の動向には要注意です。


以上、今回も当サイトをご覧頂きありがとうございました。

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