9月7日から15日にかけて欧州野球選手権が開催されています。ヨーロッパ各国にとってこの大会は、東京オリンピックへの切符を懸けた最初の戦いになります。この欧州選手権の上位5位までに入れば、次のステージである『東京オリンピック 欧州&アフリカ予選』に進出することができます(下のの図参照)。
戦前の予想では、WBCでもコンスタントに成績を残しているオランダとイタリアの2強と、これに続くスペイン、ドイツ辺りが順当に上位5位以内までに勝ち上がってくると思われています。そして、残りの椅子をチェコやフランス、ベルギー、イギリスなど欧州中堅国クラスが争う形となると思いますが、そこに割って入ってきそうなのが”欧州野球選手権の予選”から勝ち上がってきたイスラエル代表です。
イスラエル野球協会会長のリクルーティング
イスラエル代表と言えば、2017年第4回WBC2次ラウンドで日本とも対戦したことが、よく取り上げられます。同大会の1次ラウンドでは、韓国、台湾、オランダといった野球の強豪国を倒し『番狂わせ』と報じられていました。ただ、イスラエル代表の実態は、ユダヤ系アメリカ人マイナーリーガーであり、戦力的には1次ラウンドを勝ち抜く可能性は十分あったので、決して『番狂わせ』という程戦力差は無かったのです。
WBCイスラエル代表がユダヤ系アメリカ人選手を召集できたのは、WBCの出場資格と関係しています。というのも、WBCでは必ずしもイスラエルの国籍を持っていなくても、出生国であったり両親の国籍や出生地が当該国であれば出場資格が得られます。逆に、WBC以外の大会(それこそ東京オリンピックなど)ではその国の国籍を入手する必要があります。なので、WBCに出場したようなイスラエル代表メンバーをそのまま召集することは簡単にはできません。
そこで登場するのがイスラエル野球協会の会長Peter Kurz氏です。Kurz会長やイスラエル野球協会の面々が積極的に動いて、ユダヤ系アメリカ人選手のリクルーティングや、イスラエル国籍取得に関係組織への協力を呼びかけた結果、欧州選手権に向けて多くのユダヤ系マイナーリーガーを召集することに成功しました。召集できた選手の中には、メジャーで8年間プレイしたダニー・バレンシア(3B/元シアトル・マリナーズ他)のような本当のメジャーリーガーも含まれています。イスラエル代表の選手達も”イスラエルを代表してオリンピックに出場する”ことへのこだわりがあるようで、例えば、WBCにも出場したタイ・ケリー選手は、先月8月にプロ選手として引退しましたが、今月イスラエル国籍を取得しそのまま代表チームに合流しています。キャリアの集大成をオリンピックで迎えたい、という強い気持ちがあるのではないでしょうか。他にも、Jeremy Wolf選手はイスラエルでの野球普及のため、欧州選手権後に同国への移住も考えているとか。選手からフロントまで、イスラエル代表の結束や想い,覚悟はかなり強いように思えます。
そんな想いで集まったイスラエル代表チームは、戦力的にはWBCの時程の面子は集められていないものの、他の参加チームからすれば十分警戒が必要なレベルの戦力にはなっているようです。
欧州野球選手権の戦力を見てみよう
そこで、具体的に欧州選手権に参加する強豪4カ国とイスラエル代表の戦力を見ていきましょう。
オランダ代表
WBCでもメンバー入りした選手を多く揃えるオランダ代表。そもそもWBCでは、野手にメジャーリーガーを多く揃えていたので、投手陣はいい意味でも悪い意味でも戦力維持。超ベテランのコルデマンスやマークウェルも健在で、個人的にはもう少し新顔が見たかった。一方、野手の方は、WBC代表と比べれば現役メジャーリーガーがいない分、ごっそり主力が違う面子になっています。しかし、オランダが他の欧州各国と違うのは選手層の厚さ。メジャーリーガーがいなくとも、多くのオランダ及びオランダ領諸島出身のマイナーリーガーがそれらのポジションに入れることができます。他の代表チームもなるべく多くのマイナーリーガーを召集しようと頑張っていますが2,3人程度。オランダはそれより多くのマイナーリーガーが召集できるのが強みです。投手はオランダ国内リーグ中心、打者はアメリカを主戦場とする選手が揃っています。
イタリア代表
オランダと双璧のイタリア代表。イタリアの国内リーグ”セリエA”所属の選手中心の構成となっていますが、アメリカでプレイする選手もちらほら。プロ野球初のイタリア人選手だった、アレッサンドロ・マエストリ(SP/元オリックス)がエース格で、WBCブラジル代表経験のあるムリーロ・ゴーベア(RP/ボローニャ)などもロースター入り。打者では、メジャーで225試合の経験のあるクリス・コラベロ(1B/元トロント・ブルージェイズ)や昨年メジャーデビューしたジョン・アンドレオリ(OF/シアトル・マリナーズ(3A))などが、強力打線の中心を担ってくる見込み。
スペイン代表
スペイン代表は、前回WBCの予選大会に出たメンバーが半分程度メンバー入りしました。投手の中には、元楽天所属のライナー・クルーズなどがいます。スペイン国内リーグ所属の選手が多いですが、結構イタリア・セリエAでプレイしている選手も多く、イタリア代表とは、手の内を知る選手同士の戦いとなりそうです。(もっとも、オランダやドイツとも、ヨーロッパの大会で何度も戦っている選手は沢山いると思いますが…。)
U18野球ワールド杯ではスペイン代表が、アジアやアメリカの強豪国相手に大健闘しました。戦力的にはオランダやイタリアの方が少し上だと思いますが、スペインのフル代表も頑張って欲しい所です。
ドイツ代表
地元開催のドイツ代表。ドイツ出身のメジャーリーガー、マックス・ケプラー選手(RF /ミネソタ・ツインズ)今季36本塁打(9月8日時点)を放ち完璧にブレイクした状態になりましたが、彼に続くように近年ドイツ出身マイナーリーガーの数も少し増えてきた印象があります。そんな中マーカス・ソルバックなど、ピッチャーのマイナーリーガーを呼べたのは大きいかなと思います。他の国と比べると国内リーグ(ブンデスリーガ)出身者の比率が高い。
イスラエル代表
そして、今回のテーマであるイスラエル代表です。見てすぐお気づきかと思いますが、「無所属」の選手が多いです。これを見ると「なんだ、マイナーリーグをクビとなった浪人チームか。」と思われるかもしれませんが、どうもそう単純ではないみたいです。イスラエル野球協会のホームページを見ると、現在の所属チームが TEAMイスラエルとなっていました。ラグビーなどでは、選手が協会と契約する形がポピュラーですがそんな感じなのか?イスラエルの場合、欧州選手権には予選からの出場でしたから、代表チーム専任っていう感じなんですかね?まぁ実質、無所属なのかもしれませんが、だからといって実戦から遠ざかっていたりするかというと油断はできません。先月まで現役マイナーリーガーだったタイ・ケリー選手の他にも、ニック・リックレス選手はミルウォーキー・ブルワーズのマイナーチームでコーチをやっていますが、昨年までマイナー3Aクラスでプレイしていましたし、それこそ前述のダニー・バレンシアに至っては、昨年までメジャーリーガーでした。
因みに、このタイ・ケリーとブレイク・ガイレン(OF/ロサンゼルス・ドジャース(3A))は、第4回WBCのイスラエル代表チームでもスタメン出場していましたし、そこにメジャー引退したてのダニー・バレンシアが構成するクリーンナップはかなり強力だと思います。
今回特集した5チームは、欧州選手権初日時点でどのチームも勝利して順調なスタートを切っています。特に、イスラエルは一番のライバルになりそうなチェコ代表を破りました。(チェコ代表にも頑張って欲しいので個人的には複雑な気持ちですが…。)WBCでダークホースとなったイスラエル代表が、東京オリンピック予選でも台風の目となるのか?要注目です。
以上、今回も当サイトをご覧頂きありがとうございました。
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