【考察】マイナー球団の削減が世界の野球に与える影響

 コロナの影響で開幕が延期されていた世界各国の野球リーグが、徐々に再開される動きが本格化してきました。日本のプロ野球もようやく再開し、無観客の寂しさはあるものの漸く3か月遅れの球春(?)が到来となりました。一方で、海を超えたメジャーリーグの方は、球団と選手の折り合いが中々ついていないようで、開催が不透明な状態が続いています。

 一方、メジャー傘下マイナーリーグの球団数を削減するという話が去年話題になり、今年4月になって、MLBとマイナーリーグの間で現在のマイナー球団数160チームから120チームへの削減に合意されるという報道がありました。背景には、マイナーリーガーの待遇の改善、長距離移動の負担低減といった目的があるようですが、これはアメリカのマイナーリーグが独立採算であるが故に起きている問題とも言えます。


マイナー球団削減

 そもそも「MLBとマイナーリーグの間で」と書きましたが、マイナー球団は地元の独立資本のチームなので、MLBとは別々の組織になります。なので、マイナー球団が提携先のメジャー球団を変更するケースもよくあります。メジャー球団は放映権という莫大な収入源を持っていますが、独立採算のマイナー球団では、彼らの収入の多くがチケット代やグッズや物品販売などスタジアムでの消費されるものの売上が多くを占めています。そうすると、観客数の少ない球団ほどマイナーリーガーの待遇は厳しくなる訳で、観客動員数はレベルが下がる程少なくなっていきますから、今回のマイナーリーグの球団数削減の対象も、底辺となる1Aショートシーズン以下になっています。以前特集した『世界の平均観客動員数ランキング~2019~』を見ていただければわかる通り、やはりマイナーリーグのレベルによって観客動員数にも差が出てきます。3Aでは1試合平均7千人弱、2Aでは平均4~5千人程度を集客しているのに対し、1Aショート以下では1~3千人くらいです。その分球団の売上も少なくなる訳で、球団経営を成り立たせるにはコストを抑えるため選手の待遇も抑えざるを得なくなります。日本のプロ野球のように、トップの球団が2軍3軍ファーム組織を丸抱えしてくれる場合、球団トータルで収支が取れていれば、このような問題が起こることはなくなります。なので、メジャー球団がサポートを入れるというのも手段な一つのように思いますが、”言うは易し”で実際やろうとすると色々と難しい課題が出てくるのかもしれません。


世界の野球への影響考えてみた

 では1A-やルーキーリーグ球団が無くなるとどうなるか?考えてみました。(因みに、あくまでメジャー球団との提携が無くなる、という意味であって、チームによっては独立リーグのような形で存続するチームも出てくるかもしれませんが、ルーキーリーグには球団直営の所もありますし、選手の受け皿(枠)は明らかに少なくなるでしょう。)今回解雇される選手というのは、年齢が20代後半に差し掛かっていて将来性が望みにくい3A/2Aクラスの選手とか、元々削減対象の球団に所属していて伸び悩みの傾向が出ている20歳前後の若手選手だろうと思われます。”エイジングカーブ”という形で年齢に伴う成績の落ち込みが数値化されてしまっていますから、元々年齢にシビアなメジャー球団らは兎に角将来性が低いと思った瞬間にばっさりクビにします。そうすると、残ることが出来た選手が上のレベルで空いたポジションを埋める形で昇格することになります。それまで、3Aからルーキーリーグまで6つのプレイレベルに階層分けされていたものが、4つ(3A/2A/1A+/1A)に減るので、1つのレベルの選手のプレイレベルのバラつきが若干大きくなるのではないか?と思われます。なので例えば、削減前だったら1A-やルーキーリーグでプレイするレベルの選手が1Aというステージで戦うことになる訳ですから、削減前だったら対戦することの無い相手と戦う機会が出てくることになりますので、ここから上のレベルに昇格することが以前より難しくなるだろう、と予想されます。もちろん、メジャーに昇格するには、いずれRk→1A-→1A→1A+、、、と昇格していかないといけないので、結局後で対戦しなければならないのですが、育成の段階を踏むステップが荒くなります。この結果、1Aに入団したての選手にとっては成績を出し難くなるのではないかと思います。

 そうすると、大変なのが野球後進国出身のプロスペクト(若手有望株)選手でしょう。メジャーのスカウト網は世界中に広がっているので、欧州などの野球後進国にいるプロスペクトもメジャー球団とマイナー契約を結んだ後は、ルーキーリーグからキャリアをスタートします。野球後進国出身の選手は、アメリカという異なる環境への適応というハンデも抱えているので、同国出身の選手と比べて超えるべきハードルが多くあります。更に、野球強豪国のドミニカ共和国やベネズエラといった国ならば、その辺のノウハウは先輩メジャーリーガーから色々聞かされているでしょうからまだ有利ですが、後進国はそもそも選手数が少ないのでよりハンデの大きい環境にあります。なので、ここにマイナー球団数の再編で昇格のハードルが高くなれば、削減前よりも野球後進国からスタープレイヤーが誕生する可能性が低くなるのではないか?と思うのです。


日本野球への影響

 マイナー球団の削減により、1Aショート以下の選手の見切りが早まるでしょうから、中にはまだ才能を残しているダイヤの原石もいるだろう、と。そうすると日本のプロ野球球団との契約を目指して、来日してトライアウトを受けたいというラテン系の選手も増え、中には掘出しモノがいる確率も増えてくるような気がします。メジャーリーグとプロ野球では外国人選手に求められる基準が違いますから、日本の野球なら合う選手はいるでしょうし、プロ野球球団にとってもこの流れは若干プラスに働くはずです。(あくまで”掘出しものが見つかる”可能性なので、影響は”若干”でしょうけど。)

 一方、野球後進国の選手からすると、強豪国出身の野球選手がアメリカだけでなく日本野球も流れるので、日本もより狭き門になるかもしれませんが、それでも日本でプレイしたいと思う選手は増えるような気がします。というのも、野球後進国の選手からしたら、今まで野球のキャリアを積むならばアメリカか、アメリカがダメなら母国に戻るか、という選択肢が大半で、文化の大きく違うアジアの野球への関心はそこまで高くないのではないかと思います。でも、今コロナの影響でMLBの試合が開催されていないため、アジアのプロ野球のプレゼンス,存在感が高まっています。これは今年に限った話だけでないですが、近年のFA市場の停滞により、オリックスにアダム・ジョーンズという大物が来日したようにメジャーでも実績のある選手が獲得されるようになっていますし、カーター・スチュワートJr(SP/福岡ソフトバンク)のようなプロスペクトが日本を選択したことは大きな意味があります。一方、韓国ではアディソン・ラッセル(SS/前シカゴ・カブス)がキウム・ヒーローズと契約しましたが、裾野の小さな韓国と比べれば、自分の実力を証明するチャンスや舞台が沢山あるのは日本なので、まだこれからキャリアが望める選手からすればアジア野球の中での選択肢は日本ということになるでしょう。特に投手ならば、マイルズ・マイコラス(SP/元読売)やトニー・バーネット(RP/元東京ヤクルト)のように、メジャー球団と契約するチャンスもあるかもしれません。彼らからすれば、アメリカへのキャリアが閉じてしまう訳ではないということですね。

 なので、例えば野球後進国の若手有望の投手が、四国ILやBCLなどの日本の独立リーグに来てもらってそこで活躍し、日本のプロ野球球団と契約なんかしたりしたら、(ちょっと妄想始まっていますが)これは新たな成功モデルになるのではないでしょうか?さらにその選手の活躍が、母国での野球発展に繋がると嬉しいですね(妄想出来上がり)。


韓国や台湾は影響あまり無い?

 韓国はメジャー~3Aの外国人選手を獲得するのが主なので、マイナー球団の削減よりもFA市場の動向の方が、外国人選手の獲得に影響が大きく出るような気がします。

 気になるのは台湾の方です。まず、マイナー球団削減前の状態を振り返ります。日本や韓国と比べると球団の予算が少なく外国人選手に払える給与が少ないので、日韓のようにバリバリのメジャーリーガーをすぐ獲得する、という現象はまだ起きていませんが、いち早く台湾プロ野球(CPBL)を再開したことでアメリカでの認知度は高まりました。マイナー球団の削減の影響は、台湾出身の野球選手(いわゆる”海外組”)に影響が出ているのでるのではないか、つまりアメリカから台湾に戻ってくる海外組が増えるのではないか?と思います。これがCPBLに良い影響となって出てくれれば良いのですが…。

 一方でメキシカンリーグ(LMB)は、買い手(球団)が強くなるので選手獲得がし易くなるのではないでしょうか?カンナムリーグの消滅で、アメリカ独立リーグも再編の動きを出している中、観客動員が停滞するメキシカンリーグでも同じ流れが出てくるかもしれませんが、そもそもメキシカンリーグの方がメジャーリーガーの受け皿っぽいイメージがありますし、実際そうなっていると思います。メジャーリーグの再開の道筋が見えないなかで、メキシカンリーグが彼らより早く開催できれば、その立場を利用して更により良い選手を獲得できると思います。メキシカンリーグの球団は、メキシコ出身以外の選手に対し”育成”という視点でみることはあまり無いだろうと思いますから、低いクラスのマイナーリーガーにとってはメキシカンリーグへの道はちょっと厳しいのかもしれません。

 なので他の国と比べると、独立リーグなど裾野が広い日本の野球界が一番の受け皿になり得るのではないかと思います。


マイナー球団削減はやっぱりマイナス

 でも結局の所、この1A-やルーキーリーグのマイナー球団の削減は、アメリカの野球マーケットの縮小を意味しているので、必ずしも野球にとっていいことかと考えると、マイナスの方が大きいように思えてなりません。既述の通り、1Aショート以下の1試合平均観客動員数が1~3千人程度と書きましたが、実はサッカーJリーグの3部J3の平均観客動員に近い数値です。1Aショートはサッカー風に言えば『5部リーグ』に該当しますから、野球の方が試合数も多い中でこれだけの観客を集めているということは、かなり凄いことだと思います。日本のプロ野球の2軍でも、観客動員はこれより少ない所も普通にありますからね。

 なので、マイナー球団の世界の野球への影響というテーマで考察してみましたが、選手のプレイ機会という意味では、アメリカ国外に受け皿はそれなりにあるのかもしれません。しかし、経済的な観点で見ると、アメリカで集めていた程の観客が集めることははっきり言って難しいしょうから、マーケットとしての縮小にはなるでしょう。5部リーグ相当で、ここまで集客が出来ているのは、月並みの言葉ですが、”地元密着”の経営の元『オラが街の球団』として築かれた土壌があるからこそ成り立っているのでしょう。これが1年くらいで消滅の危機に瀕してしまうのはあまりに勿体ない気がします。なので、延命という形でもいいので、やっぱりメジャー球団のサポートをしてでも球団運営を維持すべきだと思います。


まとめ

長文になってしまったので、以下まとめです。

・球団数が減る分、3A2Aへの昇格への道のりは厳しくなる。

・コロナ影響も相まって(特に野球後進国出身の)選手にとって、裾野の広い日本野球のプレゼンスは高まる。日本発の野球後進国への発展に期待したい。

・日本も凄いけどアメリカのマイナーリーグのマーケットの裾野はさらに凄い。これを短期間のうちに無くしてしまのは非常に勿体ない!

~以上~




2コメント

  • 1000 / 1000

  • samuraistripe

    2023.07.08 17:30

    @U-KI(ゆーき)コメントありがとうございます(返信が遅くなり失礼いたしました。)。今のところ1Aのショートシーズンは復活はせずのままですが、一方でMLBはアメリカの各独立リーグをパートナーリーグという形で結び付きを強めていますね。MLBとしては結局トップ所の人材は集まる構図にはなっているので自ら球団を作る必要性はありませんし、MLBパートナーリーグでもない限りイチから球団を設立しても短期的な利益が見込めないだろうと考えると、以前にような数までチーム数が復活する可能性はないのではないかと思います。
  • U-KI(ゆーき)

    2023.06.16 10:44

    コメント失礼します。 削減してから2、3年経って、減ってしまったチームは復活したのでしょうか?また今後復活する可能性はあるのでしょうか?(収入や観客動員数が回復した場合)。