日米の変化球を比較する

 日本のプロ野球と米国メジャーリーグでは、よく投げられる球種と逆に滅多に投げられることの無い球種があり、それぞれのリーグの考え方や特徴が表れています。今回は代表的な各リーグの速球/変化球の比較と、最近の球種の傾向について考察していきたいと思います。


ストレートは日本が4シーム、アメリカは2シーム

 上の図は2017年のNPBとMLBの球種割合です。まず、最初にお断りしないといけないのが、手持ちのデータでは日本とアメリカの集計方法が多少違っているため、単純比較ができない部分があります。例えば、日本のデータでは速球系を①真っ直ぐなストレートである『4シーム』と、②投手の利き腕方向にちょっと曲がる/素早く沈む球種ということで『2シーム&シュート系』に分けて集計しています。しかし、メジャーリーグの集計データでは、ストレートを『4シーム&2シーム』で一括りにしています。よって、残念ながらアメリカの『4シーム』と『2シーム』の正確な割合は分かりませんが、一般的にアメリカでは『2シーム』が基本とされていて綺麗なストレートである『4シーム』を使う投手は少数派と言われています。逆に、日本は4シーム系のストレートが46.8%に対し、2シーム&シュート系が7.1%ですから、日本ではストレート=4シームという訳です。


 これは、アメリカでは『強打者揃いでストレートに強い』こと、『試合数が多い』ことと、『ボールの特徴』が影響していると考えられています。アメリカの強打者はストレートに滅法強く、球速があろうがタイミングを合わせられればスタンドまで持っていく力があります。なので、バットの芯を外してゴロを打たせられる2シームの方が、メジャーリーグには有効と考えられているようです。ゴロを打たせられれば、ダブルプレーのチャンスも増えます。試合数が多いメジャーリーグでは、球数を出来るだけ少なくできる球種として2シーム系ストレートが基本となった訳です。また、メジャーリーグの公式球はプロ野球の統一球よりも縫い目(=シーム)が大きいと言われていて、変化球の曲がりも大きくなると言われています。2シームも、日本のボールで投げるよりも、メジャーのボールで投げた方が変化量は大きくなります。多くの日本人投手がメジャー移籍後に、日本時代の4シーム主体から2シーム主体にモデルチェンジしているのも、このボールの違いによる影響が大きいようです。


縦の変化球は日本がフォークボール、アメリカはチェンジアップ

 縦の変化球は、特に日米のボールの違いがよく影響している球種になります。日本ではフォークボール/スプリッターの割合が8.3%と、チェンジアップの5.4%よりも多く投げられています。一方アメリカでは、チェンジアップは10.4%、スプリッターの割合はわずか1.3%しかありません。アメリカでも、過去にはフォーク/スプリッターを投げる投手は多かったらしいですが、肘を故障する選手が続出した90年代辺りから使い手が減るようになっていきました。故障を嫌がったコーチが教えなかったそうです。現在アメリカでフォーク/スプリッターを投げている投手はその多くが日本人です。一部アメリカ人投手でも投げる選手はちらほらいますが、全体では少数派で、多くはチェンジアップを投げています。チェンジアップは、握り方は様々ですが一般的に肘への負担が少ない変化球と言われています。


 縦の変化球の割合がここまで違うのは、ボールの違いが大きく影響しているのではないかと考えています。アメリカのボールは表面が滑りやすく、フォーク/スプリッターを投げるには日本の統一球よりも力が必要で肘への負担が大きくなります。日本はアメリカのボールと比較すれば、まだ肘への負担は少なくなるため、消滅することなく投げ続けられたものと思われます。また、日本の打者はボールにバットを当てるのが上手いですから、その中で空振りが取れるフォークボールは必要とされ続けたのでしょう。今年、大谷投手がスプリッターを使って多くの三振を奪っていますが、後半に向けて肘への負担が気になる所です。


 また、メジャーのボールは日本のボールと比べて、スライダーが難しく、逆にカーブは変化しやすいのだとか。確かに上の図を見ると、日本の方がアメリカよりもスライダーの割合が多く、逆にカーブの割合は少ないという結果になっています。


日米過去4年間の推移

 それでは、日米それぞれのトレンドはどうなっているのでしょうか?

 上のグラフは、日本プロ野球の2014年から2017年までの球種別割合の推移を表していますが、あまり目立った変化は見られません。


メジャーで減少するストレート、増加するスライダー&カーブ

 一方でメジャーリーグはどうでしょうか?

 ストレートの割合が落ちてきている一方で、スライダーやカーブの割合が少しずつ増えてきています。メジャーでは、『ストレートは打たれやすい』という認識が広まっているようです。前述の通り、メジャーのバッターは150kmを超えるようなストレートを難なく打ち返してきます。2017年シーズンに起きたフライボール革命により、ホームランが出やすい打球角度が広まったことでフライに占める本塁打の率が急上昇しました。ストレートを投げることへの危険性が高まったことで、オーソドックスな変化球であるスライダーやカーブの割合が高まったようです。特に被本塁打率の低いカーブは、フライボール革命対策として近年注目が集まってきています。


選手選考はボールの特徴も考慮して

 2020年の東京オリンピック野球競技では、恐らく日本の統一球(ミズノ製)が採用されるものと予想されます。一方で翌年2021年の第5回WBCでは、これまで通りメジャーリーグのボールに近いWBC公式球が使われるでしょう。東京オリンピックではプロ野球に近い環境での投球が可能ですが、WBCではボールへの適応ができるかが重要となります。前回第4回WBCでも、すんなり適応できた投手と苦戦した投手に分かれました。上から投げる選手よりもサイドの変則投手やアンダースローの投手の方が適応が速かったように記憶しています。東京オリンピックとWBCは時期的に近い間隔で開催されますが、必ずしも五輪で活躍したメンバーがWBCでも活躍するとは限りません。使用球の特徴を考慮しての選考がWBCの明暗を握りそうです。


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