以前、当サイトではキューバ人選手が合法的にメジャーリーグ(以下、MLB)への移籍する新たな合意について、それを快く思わないトランプ政権が否定的な立場を取っているという特集をしました。(参考:『「赤い稲妻」はいつ還ってくるのか?』)これまで多くのキューバ人選手が、命の危険を冒しながらも、MLBでプレイすることを目指し亡命してきました。特に2010~2015年代辺りに亡命した選手の中には実力者が揃っていました。例えば、MLBデビュー年に新人王とシルバースラッガー賞を獲得し5年連続HR20本以上のホゼ・アブレイユ(1B/シカゴ・ホワイトソックス)、『暴れ馬』の異名を持ち6年連続二桁HRのヤシエル・プイグ(OF/シンシナティ・レッズ)、メジャー通算163HRのヨエニス・セスペデス(OF/ニューヨーク・メッツ)など、いずれもメジャーを代表するバッターたちです。キューバ側からすると、キューバの将来を担うはずだった才能ある選手たちが、揃ってアメリカに亡命してしまったため、キューバ代表チームも完全にスケールが小さくなってしまい、国際大会での成績は明らかな下降線を辿ることになります。また、これまで亡命してきたのは、アブレイユやセスペデスなどのベテラン選手であって、キューバ国内リーグ『セリエ・ナシオナル・デ・ベイスボル(以下、Serie)』でも記録的な活躍をした後に失踪するケースが目立ちましたが、最近ではSerieで活躍する前の若い段階でアメリカに渡ってしまうことも普通になっています。ここが日本と違う所で、日本の場合プロ野球での活躍を経てメジャーに移籍するケースが一般的で、基本的に若手選手は国内に留まってくれるため、国内リーグや代表チームのレベルが極端に落ちることはありませんが、キューバの場合は若手の有望株が国内(もしくは国際大会)で活躍する前に海を渡ってしまうため、キューバの国内リーグ“Serie“自体が空洞化しやすいのです。
Serieの成績とメジャー成績との関係
Serieでの成績はメジャーでどれだけ活躍できるかを予想する上で、貴重な情報源となります。アブレイユやセスペデスなど7選手を例に、アメリカに渡る前の3年間のSerie成績とメジャーデビュー後の3年間の成績をグラフにし、その関係を見てみました。
※尚、Serieでの成績はメジャー移籍前3年分のK%に対し、重み付け(前年×100%、2年前×50%、3年前×25%)をしています。対してMLB移籍後3年の成績は3年間の累計値で、重み付けは無しです。
例えば、三振の多さを示す指標『K%』。三振数を打席数で割った数値ですが、SerieでK%が低い選手は、メジャーに行っても低いK%を示す傾向があります。K%の値自体は、キューバ時代よりも平均して9%程悪化しますが、「三振が少ない選手の方が、メジャーでも三振が少ない」という関係性は言えるようです。
長打力にも同じことが言えます。長打力を測る指標として、『IsoP』と言う指標があります。
IsoPは、長打率から打率を引いたもので、打者の純粋な長打力を示す数値です。SerieでIsoPが高かった選手はIsoPが低かった選手よりも、メジャーで高いIsoPをマークする傾向にあります。(もちろん、メジャー成績の方が数値自体は悪くなります。)
ただし、K%やIsoPのように、全てのキューバ時代の成績指標がメジャー成績と関係する訳ではありません。例えば、選球眼を示す『IsoD』という指標。
IsoDは、出塁率から打率を引いた数値ですが、先ほどのK%やIsoPと比べると、キューバ時代とメジャー移籍後の成績にはっきりした関係性が見られません。微妙に比例関係に見えなくもないですが、・・・難しい所です。
また、四球の多さを示す『BB%』に至っては、キューバ時代とメジャー移籍後の成績はほぼ関係無いように見えます。
ストライクゾーンや球種の違いなど、様々な要因があるのだと思いますが、キューバ時代のBB%は参考にはならない、と言うことです。
このように、成績指標によってSerieの成績が参考になるのか差はありますが、Serieの成績からメジャーでプレイした場合にどの位活躍できるか、およその成績を予想することも出来ます。
デスパイネがメジャーに移籍していたらどうなったか?
日本のプロ野球には、現在キューバを代表する選手が所属しています。アルフレド・デスパイネ(DH/福岡ソフトバンク)です。アブレイユやセスペデスなどメジャーを代表する選手と共に、キューバ代表で活躍してきた大物キューバ人選手です。代表のチームメイトが次々に亡命していく中、彼は今でもキューバ代表に残り続けています。そのデスパイネは、2014年シーズンから千葉ロッテマリーンズでプレイすることになったのですが、もしプロ野球でなくメジャーでプレイしていたらどのような成績になったのでしょうか?Serieでは“グランマ”というチームで活躍していて、その時期の打撃成績から予測してみますと、結果はこのようになりました。
デスパイネと比較的体格の近いヨエニス・セスペデス(セスペデス兄)の成績と比べてみます。パワーでは若干セスペデスに劣るものの、出塁率や打率の確実性の面でセスペデスを少し上回るという結果になりました。OPSは.819と立派な成績です。この成績ならば、十分メジャーでもやっていけると思います。つまり、日本に派遣されるキューバ人の中には、デスパイネのようにメジャー級のポテンシャルを秘めた選手がいるかもしれないのです。
今のキューバに大物はいるのか?
それでは今のSerie所属選手の中に、メジャーで活躍できるほどのポテンシャルを持った選手はいるのでしょうか?今回は、メジャーに亡命されてしまう前に日本の球団が是非獲得して欲しい選手を、当サイトの独断でベスト5をチョイス致しました。メジャーに渡った場合の予想成績と共に紹介していきます。(因みに、生まれた日が分からない選手がいるので、仮に1月1日の日付にしています。)
Serieでの成績からすると、次に紹介するヨスバニ・アラルコンの方が活躍できそうなのですが、アラルコンの方が年齢的にピークを迎えた感があるので若さを考慮して、このビニャーレスをNo.1としました。ポジション的にはキャッチャーですが最近はファーストでの出場が多く、キューバ代表のキャッチャー枠には他の選手もいるので、NPBの球団がファーストやDHで起用することにも問題は無さそうです。
アラルコンはキャッチャーながら、Serieトップクラスの打撃成績をマークしています。課題は、年齢的に既に34歳とベテランの域に達しているのと、キューバ代表では主にキャッチャーを務めているので、日本の球団がDHなどキャッチャー以外で起用することに対しキューバ野球連盟FCBが難色を示すのではないかと予想されます。それでも、グランマで活躍していた時期のA・デスパイネに近い成績をマークしていることから、即戦力として1年でも日本で契約する姿を見てみたい所です。キューバ人選手にしては三振(K%)が少ないのも、日本向きだと思います。中途半端に3Aクラスのマイナーリーガーを呼ぶよりは、アラルコンの方が確実に活躍してくれそうです。
パウミエルも年齢的には30歳を超えているのですが、助っ人外国人として見れば、まだまだ活躍できる年齢です。助っ人外国人に求められるパワーと言う面では、他の選手より劣るかもしれませんが、内野を守れるユーティリティーで使い勝手は良さそう。三振が少ないのもプラスポイント。
ノレル・ゴンザレスは何より25歳という若さ。四球(BB%)の少なさは気になるものの、いかにもパワーがありそうな体系で、今後の伸びしろ含め期待。既にでバットを握る所が、キューバ時代のホゼ・アブレイユにちょっと似ている。左の大砲。
※ 残念ながらノレル・ゴンザレスは2019年7月に亡命してしまったそうです!
アビレスは以前も当サイトで取り上げた選手です。26歳の若さと左のスラッガーという点で期待は高いのですが、右膝を負傷したため最近は露出少なめ。Premier12や第4回WBCにも選ばれていることから、キューバ野球連盟からの期待も見て取れます。MLB志向が強いので、早くNPBからオファーが届かないとアメリカに行ってしまいそうです。
特に、若いビニャーレス、アビレス、ゴンザレス辺りはメジャーで活躍できそうな匂いがするので、今の内に日本の球団が獲得してくれるのを期待したい所です。
以上、今回も当サイトをご覧頂きありがとうございました。
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